第14話 慣れた生活
「シュウ、おはよう」
「おう。おはよう」
最近、距離感がおかしい。
何故かと言うと、朝や夜にマルとキスするようになった。
とはいっても、口と口じゃない。お互い頬にしている。
どうしてこうなったのか。
きっかけがあまりにささいだったから、もう覚えていない。
でもいつの間にかキスが日課になっていて、それを受け入れている自分がいた。
普通ならば危機感を覚えてもいいのに、マルの態度と性格がそうさせるのか怖いとは思わない。むしろ慣れきっている。
「今日は何をするつもりだ?」
「魔法の訓練をしに外に行こうかと思ったんだけど、もうだいぶ積もっているからやめた方が良さそうだよな」
「そうだな。雪崩でも起きたら大変だし、家にいた方がいい」
「だから家でやってみたいことがあるんだけど……いいか?」
「それは内容にもよる。どんなことがしたいんだ」
「魔法の調節と、同時に複数の魔法を出せるようにしたい。その練習を家の中でしちゃ駄目か? 暴走しないように気をつけるから」
「いいんじゃないか? 家の中でやった方が緊張感があっていいだろう。気をつけてやってくれればいい」
「そんなに簡単に許可していいのか? 言っといてなんだけど」
「いいんだよ。やるからには集中しろよ。暴走したら、冬を越す前に家が無くなって凍え死ぬことになるからな」
「分かった。ちゃんとやる。許可を出してくれてありがとう」
「気にするな。やりたいって言っているのをやらせるのが、保護者の務めだろう」
「……保護者」
不満そうにしているのは、どうせ保護者という言葉に納得していないからだろう。
あまりに分かりやすい態度に、やっぱりまだまだ子供だと安心する。
「まあ、家にいるのなら、今日は俺もちょっとやりたいことがある」
「やりたいこと?」
「ちょっと地下に潜ろうかと思ってな」
「地下室?」
驚くのも無理はない。
今までマルがいた時に、地下室へ行ったことがないから存在すらも把握していなかったはずだ。
「少し整理しておきたいものがあってな」
「俺も一緒に行っちゃ駄目なのか?」
初めて知った地下室の存在に興味が湧いたのか、マルがついてきたいと言ってくる。
でも、それじゃあ意味が無い。
「地下に行くと、上の音が全く聞こえなくてな。留守番みたいな形で、家のことを守っていて欲しいんだ」
今まで地下室の整理が出来なかったのは、何かが上で起こった時に対応出来ないからだ。
だから短時間しか掃除もしていない。
マルが留守番してくれれば、本腰を入れて整理整頓に集中出来る。
それに、連れていけない理由は他にもあった。
「とにかく留守番頼む。何かあったら呼んでくれれば、すぐに行くから。マルだけが頼りなんだ」
「……分かった」
ずるい言い方になってしまったが、絶対に駄目だった。渋々といった感じで納得したマルは、口を尖らせて不満を表わしていた。
「信用しているから頼んでるんだから、頑張ってくれ。家をよろしくな」
「分かった。責任もってこの家は守る」
「そんなに重く受け止めなくても。たぶん何も無いだろうし、魔法の訓練を頑張っていればいいから」
このままだと、家の扉の前にずっといそうだから言っておく。
頷いたから、大丈夫だと思いたい。
「それじゃあ、ご飯を食べて家のことをやってから、俺は地下に潜るな。ちょっと洗濯とか手伝ってもらってもいいか?」
「ああ。なんでも頼んでくれ」
「それは心強い」
最近、色々な手伝いをしてくれるようになったおかげで、家事がとても楽になった。
そういう面を考えると、冬を越した後マルがいなくなったら、俺の方が困るんじゃないか。
頼っている自覚はあるが、逆に言うとマルの自立にも役に立っていると考えたい。
食事の準備から、洗濯、掃除まで手伝ってもらい、俺は予定よりもずっと早い時間に地下室に行くことが出来た。
「うわっ。やっぱり埃っぽいな」
地下室の扉を開け電気をつけると、明かりに照らされた埃がキラキラと輝く。
俺はタオルを後ろで結んで、口と鼻を塞いだ。目を保護するために、ゴーグルも付けてある。本当はマスクをつけたかったけど、家の中に在庫が残っていなかった。
今日地下室に行くことを決めたのもあるし、買うのを後回しにしていた自分が完全に悪い。
出来る限り埃を体内に入れないように気をつけて、俺は中へと入った。
中には書類やら本やら乱雑に散らばっている。奥の方に行けば、物だって積み重なっているはずだ。自分でやった覚えがあるから間違いない。
掃除をするのは半年に一度ぐらいだし、簡単にしかしていなかったから、全体的に汚れている。
この部屋にはあまり来たくなくて、放置していたのが良くなかった。
これを整理整頓するとしたら、今日一日で足りるだろうか。無理な気がする。
絶対に出来ないけど、マルの手を借りたいぐらいだった。
整理整頓するとしても、まずどこから手をつけていいのか分からない。部屋の中を見回し、俺は思わず大きな息を吐いて肩を落とした。
「よし、やるか」
でも今日やると決めたのだから、少しずつでもやっていこう。
拳を握りしめ、自分に気合いを入れた。
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