第5話 マルの能力





 イノシシを手に入れられたから、肉も十分な量になった。

 雪も強くなって、外に出るのは家の周りだけにしないと、無理な環境だ。

 だから今は、採取をしたりすることも出来ないので、マルの魔法の訓練をしよう考えている。



 魔法が使えるから、マルの中に魔力はすでにある。

 あとは自分の出したい時に、出したい魔法を使うためのコントロールを覚えられれば完璧だ。


 俺は魔法を全く使えないから先生としては技術が足りないが、知識だけは持ち合わせている。

 昔、興味があって勉強をしておいて良かった。

 そして娯楽のためにと、本を捨てないでおいて良かった。


 過去の自分を褒めながら、俺は本とにらめっこをしていた。

 そんな俺の周りを、マルがつまらなそうにちょっかいをかけてくる。



「シュウ、何しているんだ? そんな本じゃなくて俺に構ってくれ」



 誰のために勉強しているのだと言いたいが、勝手にやっている俺の自己満足に過ぎないから黙っていた。



「シュウ、シュウ」



 無視していると服の裾を引っ張って、自分の存在を主張してくる。

 本に集中しようとしても、気が散って仕方がない。



「……構って欲しいって、何をすれば満足するんだ」



 本をテーブルの上に置いて、マルの方を見る。ただ視線が合っただけなのに、嬉しそうに顔を輝かせた。

 こんなふうに純粋に好意を向けられると、胸をざわつかせて落ち着かない気分にさせる。



「シュウ、シュウのことを教えてくれないか?」


「俺のことを? どうして?」


「番になるんだから、相手のことを知りたいと思うのは普通だろ」


「だから番じゃないと何度言えば……もういい」



 何度言っても、番と言って聞かないから訂正するのが面倒くさい。最近は諦めているぐらいだ。

 子供のおままごとのようなものだから、きっとそのうち飽きて言わなくなる。


 そもそも男女の違いとか、種族の違いとか、ちゃんと分かっているのか。

 大人びてはいるが、そこら辺はまだ知らない可能性もある。

 教育を受けたかどうかも微妙なところだ。



「教えてくれ、シュウのこと。どうしてここに一人で住んでいるんだとか、今までどうやって生きてきたのかとか」



 真剣な目。本当に俺のことが知りたいんだろう。



「名前はシュウ。歳は二十三。以上」



 でも詳しく教える気は全くない。

 最初に自己紹介した時と同じ言葉を言えば、目の前の顔が膨らむ。



「俺が聞きたいのはそういうことじゃないって、分かっているくせに意地悪だ」


「へーへー、俺は意地悪なんで。教えられないんだよ」



 どんなに睨まれてもわめかれても、これ以上は教えられない。

 俺はこちらをじとっとした目で見る、マルの体を持ち上げて膝の上に乗せた。



「しゅ、シュウ?」



 今までこんなふうに接触したことがなかったから、戸惑うような少しはずんだ声が聞こえる。



「こ、こういうのは、まだ早いんじゃないか?」


「何言ってんだお前」



 顔を赤くさせて、こちらをちらちら見て、一体何を期待しているのか。やっぱり中身はおっさんかもしれない。

 冷めた目を向けると、途端に顔色が青くなった。



「べ、別に違うぞ。お互いのペースでゆっくり進めたいから、無理やり何かをすることはない」


「本当、何言ってんだ」



 慌てている姿は見ていて楽しいが、言葉は全くもって可愛らしさのかけらもない。

 まあいつものことかと諦めて、俺は額をマルの額に合わせた。



「しゅ、シュウ」



 これ以上真っ赤になったら、のぼせて死ぬんじゃないか。

 その姿も見てみたいとは思ったが、今は別にやることがある。次のお楽しみにしておこう。


 目を閉じて意識を額に集中させる。

 そしてマルに入り込むイメージで、中を探っていく。


 そうすれば、暗闇に無数の光が見えてきた。

 本を読んだだけだから出来るか微妙だったが、上手くいきそうだ。

 その光の種類、正確には色と数を数えようとした時、電気のような衝撃が走った。



「っ」


「シュウ?」



 あまりの痛みに、反射的に体が後ろにそれる。

 額が、まるで熱いものに触れたかのようにジンジンと痛む。

 そっと指でなぞってみるが、傷を負ったという感じじゃない。内面的な痛みか。



「大丈夫か?俺がまた何かしてしまったのか?」



 痛みが治まらずに動かないでいると、俺の周りで焦っている気配を感じる。

 マルからすれば何が起こったのか分からないまま、急に俺が痛がりだしたのだからパニックにもなるか。

 大丈夫と言いたいが、口を開くとうめき声になりそうで無理だ。

 代わりになんでもないと安心させるために、手探りで頭を撫でた。


 これはマルのせいじゃない。

 本の中でも、技術が無いのにやるのは危険だと書かれていたから、俺の技術不足だっただけだ。やはりこういうのは得意じゃない。



 先程まで俺は、マルが使える魔法を調べようとしていた。

 最初は中に入り込めて、上手くいっていたが、無意識にか拒絶されてしまったらしい。

 俺は弾かれて、その衝撃で痛みを感じている。


 でも少しだけ見ただけでも分かった。

 マルの中には、とてつもない能力の可能性が秘めていることを。

 あんなにキラキラと輝く光は初めて見た。

 その全てを使えるようになったら、多分マルは最強の名を手に入れることが出来るだろう。



 つまりは、やはりトラブルの種になりそうというわけだ。




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