第4話二日目
それは夢だった。とても良く、甘美なものだった。
だが、あまりに壮大なそれを見た時に人間というものは涙を流すばかりで表現することはできない。そんな夢だった。ロマンの無い話だが具体的に言えば病が治り、素敵な女性と結婚し、子供が生まれてそれを紆余曲折ありながらも育てていく。そうしているうちに老後が訪れ壮大で淡々としたフィナーレが降る。そんな夢だったのだろう。男は目覚めるとともに永い夢を見ていたのだと涙をこぼさずにはいられなかった。
「嗚呼、何という夢だろうか・・・。」昨日居たはずの彼女が居る筈もないそう思っていた。だが、実際はどうだろうか。キッチンの方からはいい匂いがしてくる。そんな筈はないと思いつつそちらに向かう。
そこには美しい金髪の少女風な女が居た。
「あ、おはよう!良く寝れた?顔でも洗ってしゃっきっとしなさいっ!」
これは真か嘘か夢か。いいや、確実に彼女は居る。夢でも嘘でも無いんだ!男は洗面台で顔を洗う。洗い終わると丁度朝食が出来上がる。計算されたかのような素晴らしいタイミングだ。
~今日の朝食~
昨日の余った焼き鮭
目玉焼き
ほうれん草のお浸し
茹で野菜サラダ
雑穀米
以上
「「いただきます」」
男は話しかける。
「夢月、今日は何をする?」
夢月は答える。
「うーん・・・お散歩。」
男は少し嫌がった。
「散歩か・・・あまり外には出たくない。」
それを聞いた夢月はちょっと怒る。
「たまには運動しないと別な病気になるよ?」
男は納得したがそれでも抵抗感が有った。
「それは分かってるんだか・・・外は怖い。」
夢月は不思議そうに言った。
「別に槍が降ってきてる訳じゃないんだから大丈夫よ。何かあったら私が守ってあげるんだから!」
「「ごちそうさまでした」」
それから小一時間程して。
夢月は窓から手を出して温度を確かめる。流石蝦夷の晩秋、寒い。
「ジャンパー着ないと寒そうね。あんたもちゃんと着るのよ。」
「分かってるって。で、どの位歩くんだ。」
「一時間ぐらい?」
「昔よく歩いていたルートが有る。そこを行こう。」
「結構乗り気じゃん?行こう!行こう!」
二人は散歩に出かける。激しい高低差の有る住宅街を抜けるとしばらく平地が有りその先は崖であった。そこに見える太平洋から香る潮風の何とも言い難い香りは懐かしいものが有った。
「中々の秘境だね!スマホで写真撮ろうっと。」
「次に行こう。ここは風が吹いて正直寒い。」
緩やかな上り勾配を歩いていると横目に大きなスーパーが見えた。
「ここどう?安い?」
「安くて大盛って感じ。昔はよくここに来ていた。」
「今度はここに行きましょうね。」
「ああ、そうだな。」
そこから上ることややしばらくして今度は下りだ。
そうこうしているうちに見慣れた風景が見えてきた。
こうして小一時間の小旅行は終わった。
「ふぅ、中々の良い運動だった。」
「そうね!寒いし中に入って温かいものでも飲みましょうよ。」
家に帰って先ずは手洗いうがいをして湯を沸かす。
「ストーブ点けるか。」
ボタンを押すとちゃんと点いた。しばらくして暖かい風が出てくる。しかし、あれだ。何か異音がする。
夢月もすぐに気が付いた。
「ねぇ、爆発したりしない?大丈夫なのそれ?」
「多分、低温燃焼を続けたからガスノズルの先にタールが固着しているんだ。今度、直してもらおう。冬に止まったら悲惨極まりない。」
「早速ストーブ屋さんに電話しましょう!」
こうして午後にはストーブは修理された。
また一日が終わった。夜は優しく舞い降りて。
夢月 Γケイジ @13210987
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