第3話一日目(夜)

風呂から上がった男は更に考え込む。

(信用するしかない。しかし、本当に信用して良いものか・・・。だが、今はそうするしかない。いやしかしだな・・・。)

そうしていると夢月が帰ってきた。

「ただいまー。あ、お風呂入ってたんだ。上がった後水飲んだ?どうせ脱水状態なんだからしっかり飲みなさいよ。」

それに驚いた男は言った。

「水、飲まねば。そうではなくてだ、夢月。」

「どうしたの?」

「お前の事をどの位信用したら良いものかと考えていた。この際悪魔である事はどうでもいいとして信用に値する人なのかどうか・・・。」

夢月は笑いながら言った。

「そんなの信用できるに決まってるじゃない!もうっ、人間不信なの?でも大丈夫。私は何時だって貴方の味方なんだから!」

それを聞いて男は胸をなでおろした。

「そう・・・だよな、ありがとう。」

「深く考えすぎない事ね。自分の直感を信じて?あんたは私を見た時から私を信用していた筈よ。それじゃあご飯の準備するね。」

「手伝おうか?お前一人にやらせるのは何だか申し訳ない。」

「いいのよ無理しなくて。私がやるって決めたからには私がやるのよ。」

何とも頼もしい事だ。暫く待っていると美味そうな料理の匂いがしてきた。手作りの料理を食べるのは久しぶりだ。期待に胸を躍らせていた。料理が出来たのはすっかり夜になった頃だった。

~今日の晩御飯~

秋鮭のホイル焼き

和風ハンバーグ

生野菜のサラダ

豆腐とわかめのみそ汁

レンコンと人参の金平

雑穀米


以上


男は感激していた。再び食卓にこれ程の花が咲くとは思ってもいなかった。

「どう?美味しそうでしょ!」

「ああ!こんな立派なもん食うの久しぶりだよ。」

「それじゃあ・・・。」

「「いただきます!」」

男の空腹な腹を満たす優しい味の料理。何だか少し懐かしい気持ちになる。

「美味い、美味いよ!夢月!」

「やったぁ!うん、我ながら会心の出来ね!って、そんなに急いで食べたらお腹壊しちゃうからよく噛んで食べなさい!」

「分かったって。」

しかしこんなにも絶品な料理を食べてしまったらもう他のものは食べられない。男は見事に悪魔の罠にハマったのであった。この事象を「胃袋をつかむ」と言う。

さて、食事を終えた二人。

「皿は俺が洗うから風呂入ってきたら。」

「いいの?ありがとう。覗いたらダメよ?」

「少女趣味は無い。俺は大人のお姉さんが好きなのだよ。」

「私だって一応大人よ!?背がちっちゃいからってバカにするな!」

「そうか。てっきり少女なのかと・・・。」

「もうっ!失礼しちゃうわ!」

脱衣所で着替える夢月はとあるものに気が付く。

給湯器に何か書いてある。

「ユハリー二世」

(ユハリー二世?何かしら)

気になる。何者なのだ、ユハリ―よ。気になって仕方が無い。夢月もまた、風呂で考え込む。

一方その頃、男は少し心配していた。

(結構長いな。のぼせてないかな?)

そう考えていると上がってきた。すっかりのぼせている様だ。

「ぐえっ、気持ち悪い。入り過ぎたわ・・・。」

「ほれ、水。」

コップ一杯の水を渡されると夢月はそれを飲み干した。

そしてこう言った。

「あの・・・ユハリー二世って何!あれの正体を考えていたらのぼせたんだけど!」

男は笑いながら言った。

「ああ、あれね。あれは(お湯張り機)→(ユハリキ)→(ユハリ)それにあいつは二代目だからユハリー二世って訳。高度なギャグですけど何か。」

これには納得の夢月であった。

「成程。買い換えたら三世って訳ね。何か損した気分だわ。」

テレビでも見ながらほとぼりを冷ます夢月。男は言った。

「テレビ点けるのなんていつ以来だろう。この時間って面白い番組やってるのかな?」

夢月はだるそうに答える。

「何でもいいんだけど~出来れば~歌番組とか?」

ポチポチとリモコンを操作してチャンネルを変える。

それを横目に男は気が付く。

「あ、薬飲まないと。」

夢月は聞いた。

「何の薬?まさかじゃないけど日頃の不摂生が祟った成人病!?」

「いや・・・精神科の薬だけど。」

男は少し気まずそうであった。もしかしたら嫌われるんじゃないか・・・。

「何かの病気なの?隠さないで教えてよ。ちゃんとサポートするには理解が必要なのよ?」

男は躊躇いながらも言った。

「うーあー、いやーその。統合失調症・・・。」

それに対して夢月の反応は意外なものだった。

「へーそうなんだ。」

男は思わず聞いた。

「お・・・俺の事軽蔑したりしない?キチガイとか思ったりしない!?」

夢月は不思議そうに答える。

「別に?病気になるのは仕方ない事じゃない。それをそんな風に思ったりあろうことか言ったりなんてする訳無いじゃない。」

その言葉に男は涙する。

「あ・・・うん。」

「どうしたの?何か変なこと言った?」

「いや、ただ嬉しくて。」

「そう。ねぇ、一緒にテレビ見よー。」

「うん。」

暫くして寝る時間になった。

「布団カバーも新しいのに交換したし安心して寝れるわね!」

「本当に一緒に寝るのかよ。」

「こんなにもかわいい私と一緒に寝れるなんて最高じゃない!」

「うーん。」

「何が不満なのよ。」

「いや、俺寝相が悪いんだよ。蹴ったり殴ったりしちゃうかも知れないんだけど。」

「悪魔は頑丈なのよ?だから大丈夫。ほら、こっち来て!」

夢月は先に布団に入った。

「意外と冷えてるわねこの布団。」

「そりゃここはエクストリーム蝦夷地、晩秋は冷える。」

「私のこと暖めてよね!?」

「分かったよ。」

夢月と反対の方を見て寝る。夢月は不満そうに言う。

「こっち見て。」

「嫌だね。」

「こっち向け!」

「・・・分かった。その代わりに・・・!!!」

男は夢月の方を向き抱きしめた。夢月はにんまりと笑った。

「ふっふー、もう完全に私の虜だね。私も!ぎゅー!」

こうして二人は眠りについた。しかし、男は忘れていた。睡眠薬を飲むことを。しかし何故だろう、安心して眠りにつくことが出来たのだった。

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