ヒンナガミ


人形神ひんながみ

 墓地の土(人の血液を混ぜる場合もある)で作られた人形のことで、人の欲望や多くの霊が込められている。これをまつるとどんな願いも叶うとされているが、使用した者は呪われて地獄に落ちるとされている。



 日野さんが小学生の頃、消しかす人形を作る遊びが流行ったそうだ。

 消しかす人形を簡単に説明すると、消しゴムのかすを集めて粘土のようにこねて人形の形にする遊びとのこと。

 授業中の気晴らしに作っている子もいたそうで、毎度のように教師に怒られる。そのため、いかにしてバレないように作るか、という競技性もあったらしい。

 しかし、小学生間の一過性の流行だ。一ヶ月ほどたてば競技人口も減ってしまい、やり続けるのは一部だけになってしまった。元々暇潰し程度の遊びなので惰性だせいで作っていたのかもしれない、と日野さんは言う。


 そんな中、ずっと熱心に作り続けている子がひとりだけいた。

 気弱で大人しく、友達のいない子だったそうで、クラスの流行事はやりごとに取り組む姿は珍しかった。

 ある日、その子はクラスメイトに「消しかすがほしい」と頼んできた。理由を聞くと「大きな人形を作りたい」だそうだ。

 日野さんをはじめとした多くの子がその頼み事に応えて、快く消しかすを提供してあげた。物珍しさに興味があったから、という思いもあったのかもしれない。

 その子はもらった消しかすを大事そうに持ち帰っていた。一度も学校で作ろうとしなかったのだ。

 一体、家でどれだけ大きい人形を作っているのだろうか。

 そんな疑問から、日野さんはその子の家に行ってみた。が、「友達が来ているから遊べない」と言われてしまった。それなら一緒に、と反論したが、なんでも恥ずかしがり屋なので無理だそうだ。

 ずっと食い下がるわけにもいかないので、日野さんは仕方なく帰った。と、みせかけて家の裏側に回る。その子の家は平屋だったので、子供部屋も覗き放題だった。

 部屋からは話し声がする。本当に誰か来ているらしい。

 学校では仲の良い相手がいないあたり、親戚か隣町の子あたりだろうか。

 そう予想して、そっと窓の隙間から様子をうかがうと、部屋にいるのはその子だけ。

 彼は、机の上に置かれた、拳くらいの消しかす人形に話しかけていた。「○○君」「○○ちゃん」と、一体の人形に対して複数の名前を呼びかけている。

 その名前は全部、消しかすをあげた子と同じだった。もちろん、日野さんも呼ばれていた。

 見てはいけないものを見てしまった。

 日野さんはすぐにその場を後にする。

 今のは忘れよう。と思った。

 しかし次の日以降、その子は急に消しかすを集めるのをやめた。

 それが不自然で嫌なかんじがして、日野さんは余計に忘れられなくなった。

 

 日野さんとその子の関係はそれっきりで、中学生になると同時に遠くへ引っ越してしまったという。



 ろうそくは残り――八十七。

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