イッタンモメン
【
長さ約十・六メートルの木綿のような姿をした妖怪。空から飛んできて人を襲うとされており、顔に巻き付いて窒息死させたり上空へ連れ去ったりするという伝承も残っている。
未確認飛行物体(Unidentified Flying Object)と聞くと、かつてブームになった異星人が乗る円盤型の乗り物というイメージを持つ人が多いだろう。
しかし、本来の意味では航空や軍事の用語における、空にある正体不明の物体を表す言葉である。航路を外れた旅客機だったり敵国の戦闘機やミサイルだったり、様々な物が当てはまる。
また、必ずしも人工物とは限らず、なんらかの自然現象の誤認である場合もあり、マニアが喜ぶような展開になるとは限らないのだ。
板倉さんは熱心なUFOマニアで、幼少期からよく空を見上げて、不審な物体が浮いていないか注意深く調べているという。
とはいえ、早々それらしき物が飛んでいるわけもなく、「もしや」と思っても大抵ありきたりな人工物であることが多い。動画サイトにアップされる動画もほとんどがフェイクで、真剣に探している方からすれば腹立たしい、と語っていた。
そんな板倉さんにも一度だけ、未確認飛行物体としか言い様がない物と遭遇した経験があるという。
「ちょうど夕方でしたね。いつものように空を見上げていたんです」
オレンジ色の空には群れなすカラスの姿だけで、目当ての怪しい物体はいない。
そう都合良く現れるわけがないか、と思っていたとき、空の向こうからひらひらと、縦長のなにかが飛んできた。
夕陽を背にしているせいで、逆光で真っ黒にしか見えない。
あれはなんだろうか、とじっと観察していると、その影はどんどん大きくなっていく。否、近づいてきているのだ。
それはまっすぐ、板倉さんの元へと向かってくる。
不思議な物体を見ているという喜びと、本能的に危険と察知して逃げようとする心がせめぎ合っていた。
そうこうしている内に、謎の物体はもう目の前。
バサッと、それは板倉さんの顔にぶつかり、覆うようにして引っ掛かっていた。
表面がごわごわしている。
大きさからして
人間の皮だった。
骨や筋肉、脂肪などが全部抜けきった、皮だけの干物みたいだった。その顔に眼球はなく、真っ黒な
板倉さんは悲鳴を上げて、ぺらぺらの人間を投げ捨てた。すると皮だけの人間は風に乗って、またどこか遠くへと飛んでいった。あっという間に空の彼方へ消えていったという。
「あれって、本物の人だったんですかね……」
特殊な加工がされた人間の死体なのか、それとも人ならざるなにかなのか。
板倉さんはいまだにUFO扱いするべきかどうか、悩んでいるそうだ。
ろうそくは残り――八十八。
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