オオナマズ
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地中に住んでいる、巨大な鯰の姿をした妖怪。地震はこの大鯰が動いたために起きているという伝承が残る。日本以外でも類似した言い伝えがあり、多くの場合巨大な蛇の仕業とされている。
小川さんは
「悩みなんてもんじゃないですよ、とんでもなく痛いんですから」
簡単に説明すると、体内に石ができてしまう病気だ。「痛みの王様」とも言われており、人によっては失神するほどの激痛。石が小さければ問題なく尿管から出るが、大きい物だと詰まって尿の通り道を塞いでしまう。しかも一度発症すると再発する可能性が大。いつ激痛が訪れるか、一生悩まされるという恐怖の病だ。
「でも、痛みは別にいいんです。それより気になることがあって……」
小川さんはこれまでで四回、七転八倒の苦しみを味わってきた。それが体質によるものか生活習慣によるものか定かではないが、自分自身のせいで間違いはないだろう。
だが、腑に落ちないことがあった。
結石が落ちてくる頃に限って、大きな災害が起きているのだ。しかも、そのどれもが痛みで苦しんでから一週間以内に。
一度目は阪神淡路大震災。
二度目は新潟中越地震。
三度目は東日本大震災。
四度目は熊本地震。
そのどれもが起きる一週間前以内に、尿路結石の激痛が襲ってきた。まるで地震が起きるのを予知しているかのようにピンポイントだ。
最初はなんとも思わなかった。
しかし二度目、三度目となると偶然とは思えなくなり、四度目のときは近々大地震が起こると戦々恐々としていた。そして予想通りだった。
特に恐ろしかったのは、三度目が一番痛かったことだ。痛みの度合いが強いほど、規模も大きく大勢犠牲になる。実際、二度目と四度目はまだ耐えられる痛みだったのだ。
「ただもうひとつの、嫌な可能性もあるんじゃないかって考えているんです」
小川さんの言うその可能性とは、自分の尿路結石が予知ではなく地震の原因なのではないか、というもの。
自分が激痛に苛まれると、それに連動して大地震に繋がる。さながら大鯰の伝説のようではないか、という話だ。
「あ、今のは冗談です」
滑ってしまった、と思ったらしく、小川さんは笑ってごまかした。
さすがにその可能性はないだろうが、四度も重なると気にしてしまうのも無理はないだろう。不安になると、人は物事を結びつけて考えるきらいがある。
「できれば、二度と石は落ちてきてほしくないですね」
激痛も災害も嫌だ、という気持ちが痛いほど伝わってきた。
ちなみに、最も尿路結石を発症しやすいのは中年男性らしい。食生活も深く関わっているそうなので、怖いと思った人は日々の食事を見直した方が良いだろう。
ろうそくは残り――九十三。
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