かまって欲しいロコちゃん
高梨結有
かまって欲しいロコちゃん
ここは武蔵野に
私がこの会社にやって来たのは二年前のこと。ここは前にいた所よりも広くて静かなうえに、私に合った自由な働き方ができるのでとても気に入っていた。
私が今いるオフィスには、大勢の社員が、並んだ机でお仕事をしている。
今日も私は、そんな彼ら彼女らがリラックスしてお仕事に取り組めるように、色々と面倒を見ていた。
「ねえ、藤本くん。お仕事の調子はどう? もし一段落ついてるのなら、休憩がてら私とお茶しない?」
私は、黙々とキーボードをタップしている男性社員の藤本くんの顔を覗き込んだ。
藤本くんは、困ったな、という表情をすると、
「ロコちゃん。今はね、午後までに仕上げないといけない大事な資料の作成中だから……また、後でね」
と小さくつぶやき、私の身体を優しく押しのけると、自分のお仕事に戻っていった。
そっか。まだお仕事が一段落ついていないのか。それなら仕方がない。
私はオフィスの中をぐるりと見渡し、かまってくれそうな人を探す。
しかし、そんな人はいなかった。
他の社員や部長も、藤本くんと同じように自分のお仕事に集中している。
私はくわっと
お仕事の邪魔をするのは良くないと分かっているけれど、かまってもらえないのは、なんだか落ち着かない。
引き続きオフィス内を見渡していると、藤本くんの隣のデスクに座っている
あ、間中ちゃんもお仕事頑張ってるな、と思うと同時に、私の足は動き出していた。
間中ちゃんは、藤本くんと同期の女性社員なのだ。
「ねえ、間中ちゃん。さすがに疲れたでしょ? 休憩室に行って私とお茶しない?」
私はパソコンのモニタとにらめっこ状態の間中ちゃんの腕に、そっと触れた。
「え、ちょ、ちょっと……」
間中ちゃんは困惑した声を上げながら言った。
「も、もうロコちゃん……邪魔しちゃダメよ。私だって急いでやらなきゃいけない仕事があるのに……」
間中ちゃんがそう言うと、隣のデスクの藤本くんがクスクスと笑った。
間中ちゃんが藤本くんを睨みつけると、藤本くんは慌てて両手の掌を合わせ、ごめんごめんと謝った。
私には、二人のそのやり取りの意味がよく分からなかった。でも、なんだかそのやり取りが
お昼の時間になった。
私は社員食堂に行こうとする藤本くんと間中ちゃんに後ろから声をかけた。
「ねえ二人とも! 待ってよ!」
二人は私の呼びかけに気がつくと、私の方を振り向いた。
「私も二人と一緒にお昼ごはん食べたいよ!」
私がそう叫ぶと、間中ちゃんが私の前までやってきて言った。
「もう、ロコちゃん……。食堂までついてこようとしちゃダメじゃない。ロコちゃんのお昼ご飯は休憩室に用意してあるんだから」
「だ、だって――」
突然、間中ちゃんの手が私の頭に触れる。
「分かったから、そんな悲しそうな顔しないで」
間中ちゃんは私の頭を撫でながら、後ろで私たちの様子を見つめていた藤本くんに言った。
「ねえ藤本くん。今日はお弁当を買ってさ、休憩室でロコちゃんと一緒に食べない? なんか今日のロコちゃん、ずっと寂しそうだから……」
間中ちゃんの言葉に藤本くんは
「うん、いいよ。じゃあ僕、間中さんの分のお弁当も買ってくるから、先に休憩室に行ってて」
「分かった、お願いね。じゃあロコちゃん、私たちは休憩室に行きましょうか」
そう言うと間中ちゃんはしゃがみ込み、私の身体を抱き上げた。
私は、やっと二人にかまってもらえたことに
かまって欲しいロコちゃん 高梨結有 @takanashiyu
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