第3話

 都の入り口を守る門番のおじさんに

「困窮している村をどうにかして欲しいのですが、どこへ話を通したらいいですか?」と聞いた。

「陳情書なら城で受けているよ」と言う。

 早速行こうと歩き出すと、あまりにボロボロな姿が目に余ったのか


「そんな格好で城へ行くんじゃない。下手をすると追い返されるぞ?荷物が見当たらないが着替えとか無いのか?ああ、金も無いんだな……わかった。俺は今日はこれで上がりだから一旦うちに来なさい」


 そうして、おじさんの家に連れて行かれた。


「外へ行ったら知らない人に安易について行くなよ」と、村の人から言われていたけど……曲がりなりにもこの人は門番だ。治安を守る側の人であり、犯す側の人じゃないだろう。どちらかというと今、状況的に不審者なのは俺の方だし、仮について行かれた先が牢屋だったとしても、俺としては城へと話が通せるならいいと思っていたのだけど――


 生まれて初めて温かい風呂に入れられ、息子の古着だがと穴の空いていない服を貰い――奥さんに村で食べたことも無いような食事を振る舞われてもてなされた。

 門番さんの名前はラウルさん、奥さんの名前はメリッサさんというそうだ。家から出て城勤めをしている一人息子がいて、彼と俺は髪の色が一緒で、歳も体格も同じくらいだから他人の気がしないんだと言われた。確かにラウルさんの髪は俺と同じ栗色だったし、息子さんのお古だという服は丁度いい。

 世間話を交えつつここまで来るのに死にかけた話をしたところ、もの凄く深刻な表情をされた。


「自然災害が酷いからな……君もここまで来る道中の街道は見ただろう?昔はここまでじゃなかった。ここ十年は王都の周りですら魔物が現れ出していて、余所まで見回る手が足りていないのが実情なんだ。この間も神殿が駄目になったと逃げてきた村の人達がいたばかりだからね……」


「そうなんですね……」


 村の大人の中にはかつて道が繋がっていた頃、王都へ行ったことがある人もいたし、神官様は王都から派遣されて来た人だった。その人達から聞いた話と、俺が見たここまでの道程はあまりに違い過ぎていたから……薄々気付いてはいた。

 崩れたままの土砂も、枯れた森やうち捨てられた廃墟も、現れる魔物も、濁った川も。村の外でもかつて、パロマ村で起きたような状況が起こっている。

 メリッサさんは心から心配した様子で


「本当によく一人でここまで来たわ。オリバー君は武器を持っていなかったっていうけど、魔物が現れた時はどうしていたの?」


「神官様に体術を習っていました。運良くそこまで強い魔物に遭遇しませんでしたからどうにかなったんです」


「神殿の格闘術か、すごいな。最近めっきり遣い手が減ったというのに。君の村の神官様が教えてくれたのかい?」


「はい……まあ、ちゃんとしたものじゃありませんよ?棒とかがあれば持って殴った方がいいですし。あくまで護身用程度だと思います。俺、力だけはあるんで!」


 十年前に亡くなったライア神官様は、俺が子供の頃には既に高齢だった。だから、一応基本を教わっているだけで実践で訓練した訳じゃない。魔物の対処にそこそこ慣れてるのは、最近は減ったけど以前は村の周りにたくさん出現していたからだ。


「頼もしいな。体つきもいいし、言葉使もしっかりしてる。村の神官様が優秀だったんだろう。君ならすぐに働き口も見つかりそうだ」


 ラウルさんは俺のコップにお茶を注ぎながら励ますように笑う。


「神殿の格闘術といえばねえあなた、ライア様は凄かったわよねえ。覚えてる?お祭りの時の」


「ああライア様、懐かしいな。神官様のくせに騎士団とやりあって、30人をのしちまったんだから。お亡くなりになってもう20年にもなるが……」


 二人の会話に首を傾げる。同じ名前なんて世界に沢山あることくらいわかっているけど――


「あの……」


〝騎士団を30人のした〟という文言が聞こえてしまったのだ。さすがに違うということは無いだろう。


「それ、ライア・ハサーム神官のことですよね?うちの村のライア神官様は国王陛下の騎士団をぶちのめして左遷されたって仰ってました。俺が生まれる前くらいに村に赴任して、既にお亡くなりにはなってますが、10年前のことです。もしかして王都では20年前の災害で亡くなったことになってるんでしょうか」


 二人が、見るからに顔色を変えた。

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