第2話

 俺の故郷パロマ村は所謂〝見捨てられた村〟と言って差し支えない扱いを受けている僻地だ。


 二十年前に大災害が起こり、村から外への道が寸断されて丘の孤島となってしまった。たまたま王都へ出かけていた領主達とそれについていった人達はどうなったか知らないが、以来二十年この土地に領主は戻ってきていない。

 領主不在のまま外との行き来もできず、荒れたままの過酷な土地に残された村人達は、一言で言えば困窮した。

 結果を言えば当時の村人のほとんどが死に絶えた。

 今や村は俺と、運良く生き残った俺の親世代の人間が十余人いるだけだ。

 二十年の間に、何度も王都へ嘆願に行こうと出て行った大人はいた。――でも皆帰って来なかった。

 十年くらい前から少しずつだが作物の実りが安定し、川に魚も増えてきたことから暮らすこと自体には困らなくなり、出て行った方がむしろ危険だと、嘆願へ出ることも諦めるようになっていた。


 けれど


 先に言った通り、この村にはもう十余人の人間と俺しかいない。一番若い俺は27歳。次に若くて56歳。暮らすこと自体はできたとしても……もうこの村は終わりなのだ。子供が生まれることも無い。いずれ、俺が一人になることは目に見えていた。

 散々、村の皆で話し合った結果、俺は一人、村から旅立った。体力があるうちに。力のあるうちに。可能性に賭けて。どのみち先にあるのは〝死〟なのだから。


 俺は自分で言うのも何だが小さい頃から体力と力にには自信があった。こんな切り立った崖上の村で土砂や瓦礫と向き合いながら生き延びてきた自負もある。俺ならきっと大丈夫、辿りつけるとは思っていた。今までそうしなかったのは、働き手の俺がいなくなれば村が大変だということをわかっていたからだ。

 皆は心配だったけど話し合いで決まったことだ。必ず王都から助けを呼ぶと心に決め、俺は崖を降りる。


 村から王都へは道と呼べる道が存在しなかったこともあり、ちょうど二週間かかった。普通に何度か死にかけたけど、奇跡的辿り着くことができた。

 王都の門を見上げた時、俺の頭に浮かんだのは村を出て、王都へ助けを求めに行った大人達の顔だった。


(一人くらい、他の村まで行けたんじゃないかと思ってたけど……)


 我ながら自分以上の身体能力の持ち主を、子供の頃から通算しても知らない。そもそもまず、村から出る最低条件の崖を下る難易度が思っていた以上に高かった。


(きっと全員駄目だったんだ)


 どこで果てたのかは知らないけれど、ここが彼等が向かった王都の門なのだと思ったら、ひどく感慨深い気持ちになった。

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