イブのおはなし

 時は移ろい〈大破局ディアボリック・トライアンフ〉から300と少し。

 識別番号318、つまりこのモーティナー318が製造されました。


 彼女は集落の例に倣い、生まれてすぐ先達から様々な教育を受け始めたのですが、粉末ミルクを温めすぎて蒸発させたり、洗濯物を粉微塵にしたり、計算をミスって集落通貨(おしゃぶり)を使い果たしたり……。

 なんか気の毒になるぐらいにダメダメで「私はどんくさいのですね」と自覚するまでにそう長くはかかりませんでした。


 しかし、そんな彼女を暖かく見守ってくれる先達が居たおかげで、1年はがんばりました。

 そう、1年だけ。


 がんばった期間が短いのは仕方ないことかもしれません。

 掟が、掟が異常なモノだったのですから……!




 008と033の時代より進歩した彼女たちモーティナーの集落では、数年に一度“赤ちゃん”をつくるという掟が生まれていました。

 しかしその実態といえばあの惨劇から進歩の「し」の文字もないようなもので、出来の悪い同型機を青背景になった瞳に白文字を映すだけのおめめブルースクリーン廃人にして集落のみんなで“育児”をする……といった狂気的なものでしかありません!


 自身のお誕生日パーティで離乳食や哺乳瓶を出され、呆然とする中で信じていた先達に薬や鈍器、心身共に欠損させる為のあらゆる物品で“赤ちゃん”にされそうになった312は、涙をぼろぼろと流し何度も転びながらも、なんとか隠れ集落から近場の村まで逃げ果せたのです。




 そして彼女の証言により、恐怖の集落の存在が世に明るみに……出ることはありませんでした。

 モーティナー312、イブという愛称を得た彼女はあんな里に人族を送り込んではいけないと思っていますし、里でお世話されたいと思う人族はろくでもない者たちでしかないでしょうし。


 暗い集落のことなんかよりも、明るい青空の下でこれからの自身の生き方について考えるのに夢中ですからね。

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