ウニャ・デ・ガトの話② 『Dos !!!!』

 彼女が目を覚ますと、そこはいつも通りではない、明るく開放的な医務室のベッドの上でした。

 部屋の外からは清潔そうな香り……いえ、薬のものらしき、やや刺激的な臭いが漂ってきています。




 まともな人の姿を見たのは何年ぶりだったでしょうか。目の前にいるリカントの看護婦自身と同じ姿の人族に驚き、思わずその首を折りそうになって──そうしようとした自分に怯えながらも、記憶を頼りに交易共通語で質問にひとつひとつ答えていくと、相手は大慌てでどこかへ行ってしまいました。


 する事がなくなってしまった彼女は、やはりいつものように、意識を手放しました。

 あの船では、そうすることが一番でしたから……。


 ──それから数日後、船にいた元奴隷達は、泣いたり笑ったりしながらも馬車に乗り、故郷へと帰っていきました。

 知った顔や知らない顔が離れていくのを見送っていた彼女のそばで、高官が謝り倒していたのですが、謝罪を受ける側は上の空であまり聞いてません……。

 あの日の責任は私にあるとかなんとか、家族は何人か存命なので護衛がなんとかという話を、左から右へと受け流し続けていた彼女でしたが、


 「貴女の父は生きていて、最近もキングスレイ周辺で見かけたという証言がある!」


 ──その言葉に喜びや安堵を抱くことはなく、あの時から感じ続けている胸のつかえは彼女を縛り付ける枷となり、恐怖のどん底へと沈めていったのです。

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