ウニャ・デ・ガトの話③ 『Tres !!!』


 ……母の悲痛な叫び声を背景に、肉食獣の拳闘士ルチャドーラはひとつひとつの動作を噛み締めるように、暴力を振るっていました。


 父親の言ったとおり実戦は甘くなく、あの日、蛮族に全く効かなかった父の見様見真似を繰り返し失敗しながらも、学べることが沢山ありました。

 拳を叩きつけた時の肉の感触、骨の折り方、抵抗する相手の力の削ぐ方法、何度殴っても拳が痛くならないようにする技法。


 そして、今の自分の力でどこまで出来るかをひとしきり確認した後、勝者として拳を掲げると。

 ワッ、と歓声が上がりました……。


 ウニャ・デ・ガトは「これが父の受けていた歓声なのか」と、ある種の達成感と解放感、そして感慨深さに身を委ねながら、敗者の末路を眺め、

 急に胸に違和感を覚えて、その「つかえ」に首を傾げた──その時でした!


 爆炎と悲鳴があがり、鬨の声と共に人族の兵士や冒険者が闘技場になだれ込んできたのです!


 また血飛沫が上がり、足元に見知った顔が縋り付いてこようとして後ろから刺されているのを見て、彼女は大いに困惑していました。

 人族が倒れ、蛮族が転げ落ち、人族が吹き飛ばされ、大きな影が空を飛び、海賊が燃えながらどこかへ走っていく……


 ──胸のつかえに続き、なにか耐え難い精神的な苦しさを感じた彼女は、とりあえず意識を手放し、いつものように現実から逃避しました。


 それが、ウニャ・デ・ガトの12歳の誕生日に起きた事でした。

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