蛇足のお話

 りんごほっぺの女の子は、夢を見ていました。

 それは雷の魔剣で無双する夢とか、そういうものではありません。


 自らの根っこを形成した「サムライ・ダイミョー」と呼ばれるあの娯楽小説は、笑いあり、涙あり──お色気ありのもので、中には主人公が忠誠を誓う姫といい雰囲気になるシーンもありました。

 それを隠す素振りも見せず情緒たっぷりに朗読していたあの両親は、馬鹿だったのではないのでしょうか。


 しかし、彼女は目を輝かせていました。

 それがどんなに稚拙であろうとも……そういうのが、彼女の夢でした。


 でも自分はサムライでも、お姫様でもありません。

 一度、それを理解した──できてしまった──者がいたのですが、その者はある過ちを冒し、ナートラが操る雷鳴剣スパークの被害に遭ってしまいました。


 その者は、彼女をよりによって姫扱いしてしまったのです。

 えぇ。彼女はずっとブレていません。ただ、サムライになりたいのです。


 でも、誰かのために戦う機会など百年ちょっとの間に一回もありませんでしたし。

 なにより、自分を育ててくれた両親みたいに……いなくなってしまうのは、嫌でした。




 そして、追放されてしばらく経った頃。

 彼女はある事に気付きました。




 ──冒険者なら。共に肩を並べて戦う相手なら。

 仕えるべき“姫”と認めた相手の元で戦い、共に死ぬのも、拒否してでも生き返らせてやるのも自由だと。


 ……いえ、冒険者はそういうものではないのですが、彼女はそう思い込んでいます。


 指だけでなく、内臓が絡み合うような。

 唾液だけでなく、血の混じった内容物を交わし合うような。

 

 血生臭いその時をひっそりと夢見ては、幼いあの頃のように、頬を林檎のように紅潮させているのです。

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