奇人のお話
ある朝、ナートラ・エリュテイアが雷を放つ魔剣で無双する夢から目ざめたとき、自分がベッドの上でサムライエルフに変ってしまっているのに気づいた。
いつも通りだった。
彼女は陶磁器のような背中を下にして横たわり、頭を少し上げると、貪った果物によってこんもりと盛り上がっている自分の白い腹が見えた。腹の盛り上がりの上には、かけぶとんがすっかりずり落ちそうになって、まだやっともちこたえていた。
きょうだいや孫たちの大きさに比べると情けないくらい華奢な手足が自分の眼の前にしょんぼりと在った。
いつも通りだった。
「庵に帰るか」と、彼女は思った。雷の魔剣は夢だった。しょんぼり。
エリュテイア家の元私室、庵より広すぎるまともな部屋が、記憶の中の四つの壁のあいだにあった。
そうして、部屋から出てすぐ使用人たちに行く手を遮られ、手を擦り合わせて頼み込んだり、情けなく頭を下げたりしながら通り抜けようとしては失敗し。
ついには「靴を舐めるついでに足の指でも噛みちぎってやろうか」としゃがみ込んで舌を伸ばそうとしたその時、どこからともなく駆け付けてきた衛兵に取り押さえられた彼女はそのまま王宮へと連行され、申し聞きの後に国外通報処分を言い渡されてしまったのです。
まあ、誰もあの奇行の意味を理解していませんでしたし、密偵には「秘密だぞ?」と言っておいたのが功を奏して……はいませんね?
やっちゃったなあ、という表情を浮かべるナートラを、のちに“西の魔女”とも、”娼婦王“改め”お手玉女王“とも呼ばれる王妃──イェキュラが、かわいそうなものを見る目で見つめていました。
会場に忍び込んだ挙句、懇意にしている王妃や周囲の者のために用意した果物を食べ尽くした祖母のせいで肩身が狭くなったエリュテイア家の当主に「おっ!当主くん元気〜?」と手を振るナートラを、「もうちょっと……こう、なんとかならなかったのかしら?」と、かわいそうなものを見る目で見つめていました。
こうして追放された自称サムライエルフは、ついでだからとばかりに趣味の本を集めるため、冒険者となったのでした。
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