第20話

あんなことがあってから5分ほど経って、ようやく俺はその場から動き始めた。

まだ夏帆のことをよくは知らないものの、昨日接してみた感じではああいった場面の時には照れたり、驚いたりといった感情を出すものだと思っていた。

騒がれなかったのは良かったが、なにか消化不良だったことは否定できない。

しかし、あと1時間もしないうちに約束の時間である。

突然とはいえ、今日から新しい学校に通うのだ。

遅刻などするわけにはいかない。

何度か頬を軽く叩いて気合いを入れる。


「よしっ」


俺はベットから勢いをつけて起き上がり、行動をはじめた。



「あら慎二くん、おはよう」


「おはようございます、春乃さん。あれ、父さんはまだ起きてませんか?」


「誠二さんなら朝のランニングに行ったわよ」


「え、今までやってなかったのに……。ちょっと見栄はってるかもしれないです……」


「ふふ、そういうところが可愛いのよね、あの人。あら、こんなおばさんの惚気話なんて嫌よね?」


「いえ、幸せそうで安心しました」


「ありがとね。じゃあもう朝ごはんできるから少しだけ待っててね」


俺は言われた通りに席に着く。

初めての春乃さんとの一対一での会話だったが、問題なく話すことができた。

見た目、そして昨日の雑談の時から優しそうな印象は抱いていたが、その予想と違いはなさそうである。

今後も上手くやっていけそうで安心した。


「おふぁよー」


そして2階から夏帆が降りてきた。

俺はさっきのことを思い出し、少し恥ずかしくなってしまった。

しかし夏帆には少しもそんな様子はない。


「あれ、あんただれ?」


「こら夏帆、お兄ちゃんのこと忘れちゃダメでしょ。ごめんね慎二くん……。夏帆は寝相も最悪な上に寝起きは馬鹿になるのよ」


「こら〜!まったくお母さんってば〜。馬鹿は言い過ぎ!せめてアホと言ってよ〜」


「ほらね、ごめんね慎二くん」


俺はこれでさっきの行動に納得した。

とはいえ結構重度だな……。

これから一緒に暮らす上で似たようなことがあるかもしれない。

もう少し気を配るようにしよう……。

俺は静かに心に誓った。


そして数分後には机に朝食が並べられた。

今日はトーストに目玉焼きやハム、それにサラダなどといったメニューである。

昨晩も思ったがやはり春乃さんは料理がうまい。

俺もかなり料理をしてきたのである程度の自信はあったが、軽くそれを超えている。

仲良くなったら教えてもらったりしたいな。

そんなことを考えながら朝食を終えた。


ご飯がおわり、通学の準備をする。

そして昨日父から渡された制服に腕を通す。

新しい制服を着ると、少しだけ新鮮な気持ちになるのは誰でもそうだろう。

そして鏡を見ながら髪にワックスを付ける。

顔面偏差値30だからこそ、少しでも見た目が良くなるようにこういった努力は欠かせない。


「慎二〜、行くよ〜」


「今行くー!」


新しい高校生活。

新生活に期待を馳せ、俺は玄関の扉を開けた。

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