第9話
そして自己紹介が始まった。
これから義兄になるイケメンは目の前に座った。
「(よりによって目の前!?!?)」
目の前は恐らく1番目が合う位置でもある。
現在絶賛緊張中の私は、彼の顔を真っ直ぐ見る事ができない。
生まれて初めての感覚に戸惑い、いつも通りの平静を保つ事が出来ない。
そんな私を差し置いて、自己紹介はすぐに義兄の番まで回って来た。
「風間慎二といいます。今年高校1年です。趣味はサッカーです。春乃さんと夏帆さん?とも仲良くできたらなって思ってます。これからよろしくお願いします」
はわわ……声までイケメン……。
そして慎二って名前なんだ……。
そんなこと等を考えていたら義兄と目が合ってしまった。
そして彼はちょっと戸惑ったような顔をしながら、小さな笑みを浮かべた。
その瞬間途端に胸がキュッと締め付けられたような感覚とともに、羞恥の感情が湧き上がってくる。
まともに正面から見る事が出来なくなり、フッと目線を逸らしてしまった。
そして次は私の自己紹介の番である。
しかしこんな状況下で長々と言えるはずがないだろう。
どうしよう?と色々考えはしたのだが、結局
「瀧本夏帆です。こ、これからよろしくお願いします…」
こんな無難で短い挨拶しかできなかった。
変に思われてないかな?今変な顔してたりしないかな?
そんなことしか考えられなかった。
自己紹介と軽い雑談の後、義兄はサッカーの練習へ行った。
雑談の最中に母との会話でサッカーをやっていること、そして中々強い選手であったことは聞いた。
すごいなぁなんて思いながら私はこっそりと義兄の部屋に侵入していた。
何故?と思われるかもしれない。
後からこの行動について聞かれたのならば、恐らくこう答えるだろう。
「当時は錯乱していた」
と……。
義兄の容姿などはわかったのだが、私の心の中はもっと彼について知りたいという気持ちで溢れていたのだ。
サッカー以外の趣味や嗜好、好きな食べ物や色など幼稚と思われるかもしれない。
ただ私がこの何と呼ぶのか分からない感情を持て余していたことに違いはない。
そして私の中でたどり着いた結論として、部屋の私物などから少しでも彼のことを探ろうと思ったのだ。
そして今に至る。
部屋は大量の段ボールで溢れていた。
荷物を運んできて、それを開封し部屋を作る時間が無かったのだから当たり前である。
しかし、幸運なことに多くの段ボールの封が開けられていた。
「(さっき何かを探してたのかな?)」
まぁこれは今の自分にとってプラスであることに違いはないため、考えるのを辞めた。
時間は限られているので、早いペースで段ボールの中身を物色し始める。
まず見つけたのは大量の衣類である。
とりあえず1番上にあった白いTシャツを1枚手に取り、そして匂いを嗅いでみる。
「(え!?フローラルの香り!?)」
もちろん柔軟剤の香りなのだが、精神が色々あってキャパオーバー気味な私はそれが義兄の匂いだと勘違いをした。
後の自分が見たら人生の汚点、黒歴史でしかない。
まぁそれは置いておいて、そのTシャツがあった段ボールの隅の方でキラリと何か光を反射するものがあった。
思わず気になった私はそのなにかを引っ張り出した。
すると出て来たのは金色の〇〇杯MVP選手賞という文字が入ったトロフィーだった。
MVPってそんなにすごい人だったの!?
思わず驚いた私は、つい手を持っていたトロフィーから離してしまった。
「あっ!!!!」
気付いても、もう手遅れである。
残酷にもトロフィーはそのまま自由落下し、地面へと打ち付けられた。
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