第181話 ここは私に任せて先に行け


「ガストロン……!!!! 貴様、娘をどこへやった……!!!?」


 アイヴェツリークはガストロンをにらみつけた。

 しかしガストロンと呼ばれた巨人のほうは、なんのことかわかっていない様子だ。


「娘ぇ? 知らんなぁ」


 どうやら隠しているというわけでもなく、本当に知らないらしい。ガストロンの周囲に、娘の死体らしきものも見当たらない。もしかしたら、ガストロンの襲撃に気が付いて逃げたのか?

 アイヴェツリークは少しほっとした表情を浮かべた。


「よかった……どうやら娘は逃げたようだ。ガストロンには娘のことまではバレていなかったらしい」


 ガストロンがアイヴェツリークを待ち伏せしていたのは、俺との接触に気が付いたからか。


「それで、あいつは何者なんだ?」

「あいつは魔界将軍ガストロン。四天王を束ねる、魔界の最強種だ!」

「そうか……ならあいつも倒さなきゃな……!」


 俺は、今すぐにでもあの巨人を倒そうと、前に出る。

 魔界将軍であれば、遅かれ早かれ戦う相手だ。

 こうしてアイヴェツリークに釣られて出てきたのであれば、むしろチャンスというものだ。

 しかし、そんな俺をアイヴェツリークは制止した。


「待て……早まるな!」

「なんだよ……」

「今の君には無理だ。ここは私が倒す」

「は……?」


 今の俺には無理って、どういうことなんだろうか。

 正直、これまでのレアドロップアイテムのおかげで、負ける気なんてさらさらしない。

 そもそも、魔王を倒しにここまできたのだから、あいつなんかに苦戦してはいられないのだ。


「あいつは見た目もでかいが、それ以上に知能も高く、強いぞ。それに、君にはやってもらわねばならないことがあるだろう」

「娘か……」

「そうだ。とりあえずここは私が引き受ける。だからロイン、君はここを離脱して娘を探してくれ。おそらく娘の居場所は見当がついている」

「よし……わかった。そうまでいうなら、先に娘を探そう」


 アイヴェツリークがここまで言うということは、実際俺がガストロンに勝てる保証はないみたいだ。

 それなら、もう少し魔界でレアドロップアイテムを集めてからでもいいだろう。

 それに娘が心配だというのには、俺も同意だ。


「だが、それだったら俺がここに残って、アイヴェツリーク、あんたが娘を探してもいいだろう? あのガストロンとかいうやつは、倒してしまっても構わんのだろう?」

「いや、私なら確実にあのガストロンを倒せる。弱点も知っているからな。君には死なれては困るのだ。娘を、人間界に送り届けてくれるまではな」

「そっか……なら、本当にこの場は任せていいんだな?」

「ああ、ここは私に任せて先に行け。頼んだぞ」

「よし」


 俺たちの会話を、遠くからみていたガストロンが、しびれを切らす。

 どうやらガストロンは俺にもアイヴェツリークにも怯えておらず、余裕の態度を貫いている。

 目の前に敵がいるのに、襲い掛かってこないとはな。


「作戦会議は終わったか? 裏切り者のアイヴェツリークよ。なにをしても無駄だ。もう貴様らはここで死ぬ運命なのだからな……!」


 しびれを切らしたガストロンが、こちらに向かって走ってくる。

 超巨大なガストロンは、かなり遠くにいても姿が見え、声がきこえるみたいで……、思ったより離れた場所から走ってくる。

 ドスンドスンと地響きをたてながら、ガストロンの拳が俺たちに向かって振りかざされる。

 そのときだった、アイヴェツリークが魔法を放つ。


 ――シャイィンン!!!!


 アイヴェツリークから放たれた光線が、ガストロンの視界を奪った。


「うお……!?」

「ロインいまだ! 娘を探しに行ってくれ! 場所は伝えたとおりだ!」

「よしわかった!」


 俺たちは、アイヴェツリークから教えてもらった場所に、転移した――。

 

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