第180話 巨人の影
「――そしてそのあと、すぐに私を殺してくれ」
「………………は?」
アイヴェツリークの提案に、俺は言葉を失った。
そういえば以前にも、自分を殺してくれとか言ったやつがいたっけな。
まったくどいつもこいつも……。
「ちょっと待て、どういうことだ」
「私も魔王軍である以上、魔王様の命令には逆らえない。魔王様には配下に命令を強制する能力があるのだ。私の裏切りがバレれば、私に戦うように強制するだろう。そして私が本気を出せば、君たちに損害を与えてしまう。娘をまもってもらうかわりに、私の命を差し出そう」
「そんな……一緒には来られないのか? 娘も悲しむだろう……?」
「いいんだ。私はもう十分長く生きた。それに、もう魔族だの人間だのという戦いにはうんざりだ。魔王様の手前、一応は君と戦うふりをする。そして君は私を殺し、娘を連れ去る……というシナリオだ。そうすれば、魔王様も娘のことを疑わないだろう」
なんだかややこしい話だが、とにかく理由はわかった。
「それしか、方法はないのか?」
「ああ、もし娘や私の裏切りがバレれば、魔王様は娘に危害を加えようとするだろう。だから娘も一応は抵抗する。なあに娘はずいぶん美人だから、女好きの君が嫁として連れ去っても不自然じゃない」
「なんかそれだと俺がすんごい悪い奴みたいにならないか……? まあ、いいけど……」
話をまとめると、俺はアイヴェツリークの娘を人間界に連れ帰るために、彼女を攫わなければならないということか。そしてその際にアイヴェツリークを殺す……と。
「私の家には、魔王様の城へと通ずるポータルもある。それに、私を倒せばきっと君の能力で強力なレアドロップアイテムも手に入るはずだ。それもぜひ役立ててほしい」
「そこまでしてもらえるのか……」
「ああ、だからどうか、娘を幸せにしてやってほしい。人間界に連れ帰り、普通の生活をさせてあげてくれ」
「もちろんだ。それは俺に任せておいてくれ」
俺たちはかたく握手をかわした。アイヴェツリークの娘を思う気持ちは、存分に伝わった。
「最後に一つきかせてくれ。あんたはなんで拾った人間を育てたんだ? なぜ、殺さなかった?」
「……さあな、魔が差したのかもな……。長く生きていると、そういうこともある」
「そうか。一人の人間として、礼を言うよ」
俺たちはアイヴェツリークの家に向かう準備をした。
アイヴェツリークがなにやら転移の術式をとなえる。
別に場所さえ教えてくれれば、俺の転移スキルでも飛べたが、まあここはまかせよう。
「アイヴェツリークさん、良い人だね」
クラリスが俺に話しかける。
「ああ、まあ……人といっていいのかわからないけどな」
魔族は人なのかどうか微妙なところだ。たしかに人には似ているけど、いろいろと根本的に違っている。
「さて、準備が出来たぞ。さっそく、娘に会わせよう」
「ああ、案内よろしく頼む」
俺たちはアイヴェツリークの完成させた術式の上に乗った。
彼が唱えると、一瞬でアイヴェツリークの家に到着する。
そこは古びた屋敷だった。
だが――。
「お、おい……ここが、お前の家なのか……?」
アイヴェツリークの家と思しきその建物は、ぐちゃぐちゃに破壊されていたのだ。
とてもじゃないがこんなところに人が住めるとは思えない。
まさか、俺たちは騙されたのか……!?
「そ、そんなはずは……む、娘は……!?」
アイヴェツリークは破壊された自分の家をみてうろたえはじめた。
まさか、彼の裏切りがバレていたというのか……!?
そのまさかだった。
倒壊した屋敷の裏から、巨大な影が伸びる。
そして真っ赤な巨人が姿を現した。
「勇者ロインと仲良くおデートか? アイヴェツリークよ……」
巨人は地響きのような低音でそう語りかけてきた。
アイヴェツリークは巨人をキッとにらみつけ、彼の名を呼んだ。
「ガストロン……!!!! 貴様、娘をどこへやった……!!!?」
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【あとがき】
10月20日で、確定レアドロップ連載開始から1周年になります。
ここまで連載を続けてこられたのも、読んでくださるみなさんのおかげです。ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
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