第182話 娘
俺たちはアイヴェツリークに言われた通り、とある塔の中に転移した。
なにかあったときに、そこに逃げ隠れるようにと、娘には伝えてあったようだ。
転移した場所にいたのは、見目麗しい少女だった。
深紅の長髪をきれいになびかせ、どこか不安げな表情を浮かべる女性。
おそらく、彼女がアイヴェツリークの言っていた娘で正解だろう。
俺は、恐る恐る声をかけた。
「おい、お前がアイヴェツリークの娘か?」
警戒しながら、娘は。
「そうだけど……あなたは?」
「俺はロイン・キャンベラス。あんたを助けにきた。アイヴェツリークに言われてな」
「そう……ありがとう。私の名はエスレ。でも……アイヴェツリーク――父は?」
「それが、かくかくしかじかで……」
俺はこれまでにあったことをかいつまんで説明した。
まあ向こうも、大体の事情はわかっているようだったので、話はスムーズにすすんだ。
アイヴェツリークの作戦を、あらかじめある程度聞いていたのだろうな。
「……ということで、今アイヴェツリークはガストロンと一騎打ちをしているんだ」
「……そんな……! それは、まずいことになります」
「え……? だが、アイヴェツリークはガストロンに対して、勝算があると言っていたぞ?」
「それは、通常の父であれば勝てたでしょう……ですが、今のガストロンはまずいです! あなたを倒すために、ガストロンは禁術に手を染めました! 今のガストロンは、大幅に強化されています」
「なんだって……!?」
だとしたら、アイヴェツリークは今頃まずいことになっているんじゃないか?
いやしかし、アイヴェツリークもただではやられないだろう。なんとしても、娘のためにもガストロンを食い止めているはずだ。
「ロインさん、今すぐにもどってください! 父を、助けないと!」
エスレは、取り乱して、俺にそう縋る。
だが、そうもいかない。
「だめだエスレ。君がもどってしまったら、相手の思うつぼだ。ガストロンに人質にでもされかねない。アイヴェツリークは、君を逃がすために命をはっているんだぞ」
「で、でも……このままじゃ父が」
「そうだな。じゃあ俺が行こう」
「え……? ロインさんが……?」
アイヴェツリーク一人じゃ倒せないとしても、俺がいけば、まあなんとかなるだろう。
エスレはこの場所で隠れておいて、俺が行って倒してくればなにも問題はない。
「待って! ロイン、私もいく!」
「クラリス……」
俺に着いてくると名乗りをあげたのはクラリスだった。
クラリスはよほど心配性なのか、いつも俺についてきたがるな……。それは、昔っから一緒だった。
「クラリス……でも、危険だぞ? 相手はあの禁術に手を染めたというし、どれほどの力を持っているかわからない。魔界将軍ガストロンなんだからな」
「危険ならなおさらだよ! 私がロインを絶対にまもるから!」
「そうか……よし。じゃあアレスター、カナンはここでエスレをまもってくれるか?」
この塔も、いつまでも安全とは限らない。
アイヴェツリークの裏切りも、ガストロンに知られていたわけだしな。
魔王の仕業かはわからないが、いつどこで誰に見られているかわかったもんじゃない。
「わかりましたロインさん!」
「私たちにまかせて!」
「よし」
エスレをアレスターとカナンに任せ、俺とクラリスで急いでアイヴェツリークを救出に向かうことにする。
アイヴェツリークにガストロンが強化されていることを、伝えなければ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます