第175話 戦況把握
※三人称視点
ロインたちが魔界へ乗り込んできたころ、魔王城では――。
「おいガストロン……! どうなっているんだ! ロインが魔界に乗り込んできおったではないか……!」
魔王デスマダークの怒号が飛び交っていた。
「申し訳ございません魔王様。ですが、現在数億の軍団でやつらを待ち伏せしております」
「本当にそれで大丈夫なんだろうな? まったく、ジェスタークまでやられおって……」
「いざとなれば私が出ますので、魔王様は安心してください」
「ふん、任せたからな」
一見すると部下にすべてを任せきりの魔王だったが、彼にも彼なりの策があった。
もちろん、魔王自信が戦いに出るということもできる。
だが、魔界の生き物はすべて魔王の眷属である。
魔王が倒されれば、それはすなわち魔界の全生物の崩壊を意味する。
そのため、四天王たちは魔王をなんとしても守ろうとしているのだ。
魔王もそのことをよくわかっており、自分が戦うのは最終手段だと思っていた。
そして、いざ魔王デスマダークとロインが対峙すれば、自分が勝つと確信もしていた。
「ふっふ……まあ最後に勝つのは我だ。気楽にやってくれ」
「っは……! もちろんです魔王様。魔王様が負けるわけはありませんからね……」
「あの憎きロイン・キャンベラスを倒すため、この術式を完成させたのだからな……!」
そう、これまで魔王デスマダークはただロインに怯えて待っていただけではなかった。
水晶によってあらかじめロインのことを研究していたからこそ、その対策もばっちりと用意していたのだ。
そして今もデスマダークは、その術式を練り上げている。
「この最強の術式の前には、あの確定レアドロップの力も無意味となる。我はまだこの術式をさらに安定化させるために、ここから離れられんからな。あとはガストロン、お前に全権をゆだねる」
「はい、魔王様。すべておまかせください。魔王様の術式を使用することもありませんでしょう。その前に、きっちりかたをつけてみせます」
デスマダークの術式はまさにロインのためだけに一から編み出した術式だった。
それを完成させ、安定させるにはかなりの時間、魔力、そして集中が必要だったのだ。
「それにしても、あいつはどこでなにをやっているのだ……?」
「そうですね……こんなときに魔王様に顔も見せないなんて……」
「まあいい、奴のことだ。どこかで作戦を練っているのだろう」
「そうですね。あいつはあいつで放っておきましょう」
彼らが言っているのは、魔界四天王残りの一柱であるアイヴェツリークのことだった。
アイヴェツリークは魔界賢人とも呼ばれる非常に賢い男で、信頼にあつい男だ。
だが近年はほぼ隠居していて、魔王の前にもあまり姿をみせない。
ただこのような事態になっても姿を見せないことに、魔王は少しの違和感を覚えていた。
「ぐぬぬ……」
水晶をにらみつけながら、デスマダークは唸り声を出す。
その水晶には、魔界の軍勢を次々になぎ倒すロインたちの姿が映っていた。
ガストロンが用意した待ち伏せ部隊もあっけなく、どんどんとその数を減らしている。
「しかもこいつら……どんどんレアドロップを手に入れてさらに強くなっているではないか……!」
「ま、魔王様……だ、大丈夫です。まだまだ兵隊はいくらでもいます。それにこいつらは、しょせんは下級魔物。まだまだこれからです」
「ええい……! さっさと一人くらい仕留めてみせろ! このクズが!」
「は、はいいい……!」
ガストロンはなかば追い出されるように魔王城をはなれた。
彼の身体はけた違いに大きいが、その分動きは鈍い。
それに、魔界は人間界とは比べものにならないくらいのスケール観だ。
ガストロンがロインのもとへたどり着くのには、まだ少し時間がかかりそうだ――。
◇
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