第172話 改心
「おお……! これが上級鑑定!」
グフトックのおかげもあって、俺は上級鑑定を手に入れることができた。
だがまだ喜ぶのは早い。
上級鑑定の書を使用する前に、まずはグフトックを蘇生させてやらないと。
「待っててくれグフトック……」
「ロイン王! ちょっと待ってください!」
そのときだった、彼を蘇生させようとする俺に、まったをかける声。
声を発したのは、アルトヴェール兵士の若い男の一人だった。
「どうした……?」
「その……こんなことを言ってはなんですが……。たしかにグフトック殿は立派でした。ですが……彼を本当に蘇生させてしまってもいいのですか……?」
「は……?」
兵士は恐る恐る、言葉を選びながら俺に提言する。
「彼はとてもではないですが、性格のいい人間とは言えません。それに、有能でもない。しかも、かつてロイン王を追放した大罪も犯している! 正直、私としてはすぐにでも処刑してやりたいくらいでしたよ」
正義感の強い若い兵士は、そんなふうに憤りを口にした。
「まあ、それも一理あるけどな……」
「そうでしょう! 彼は立派な最期を迎えたんです! あのままロイン王の役に立てたと思って気持ちよく死なせてやるのはどうでしょう! あんな男、上級鑑定が手に入ってしまえばもう用済みですよ!」
そうやってグフトックへ悪感情を向ける兵士の言葉を、俺は黙って聴いていた。
もちろん、俺のために怒ってくれてるのだというのはわかる。
だが、俺の中で決めたことは変わらなかった。
「俺のために怒ってくれてありがとうな」
「で、では……!」
「いや、グフトックは予定通り蘇生する」
「な、なぜ……!? 王は彼を恨んでいないんですか……!?」
正直、そう聞かれるとどう答えていいか迷うな……。
いや……。
「いいや、恨んでなどいないさ。むしろ、彼が俺を追放してくれたおかげで、俺は自分の力に気づいたんだ。そうでもなきゃ、俺はあのまま一生モンスターなんかと戦おうと思わなかったかもしれない」
「ロイン王……」
「むしろ、今は感謝すらしているくらいだよ。俺がここまで成り上がれたのも、全部こいつの間抜けのおかげだ。間抜けなこいつが、俺を無能と罵ったから、俺は悔しさで頑張れたんだ」
「あ、あなたは立派です……! 立派すぎます……! ロイン王……!」
なぜだか俺の言葉に、見守っていた兵士たちが全員ぐすんぐすんと泣き出した。
えぇ……どうしたんだこいつら……。
そこまで感動するなんて……。
「まあそれに、恨んではいないけど、グフトックにはまだまだ現世で罰が必要だってことだ。そう簡単にくたばらせはしねえさ。もっと俺の役に立ってもらわないと」
「そ、そうですねロイン王。王のご意見に賛同いたします……! 私が浅はかで未熟でした。出過ぎた真似を……失礼しました!」
「いや、いいんだ。さっそく彼を起こそう」
俺はグフトックに、世界樹の霊薬を使った。
「あ、あれ……? ろ、ロイン……なんで……ここは……?」
グフトックはしばらくして、静かに目覚めた。
まだ意識がもうろうとして、混乱しているようすだ。
「大丈夫だグフトック。俺が蘇生さえた。上級鑑定もバッチリてにはいったぞ」
「は……? そ、蘇生……!?」
「そうだ。言い忘れていたが、そういうレアアイテムがあるんだ。だからまだ死ぬのははやいぜ」
「って……そ、そうだったのか……!? じゃ、じゃあ俺の覚悟は……いったい……」
グフトックは拍子抜けして、身体から力がどっと抜け落ち、肩を落とした。
「ははは……悪い悪い。お前がいきなりあんなことするから……」
「ま、まあ上級鑑定が手に入ったならなんでもいいや……」
「グフトック……あらためて、ありがとうな……」
俺は彼の肩に手を置いて、礼を告げた。
「ふん……礼なんていらないよ。俺はまた助けられちまったんだからな……」
「グフトック……」
グフトックは俺の手を振りはらい、ゆっくりと体を起こした。
それからこちらへ向き直り、俺に跪いてこうべを垂れた。
まるで騎士が王に忠誠を誓うように、仰々しい儀式のポーズをとる。
「お、おい……グフトック……」
「ではあらためて、ロイン王。このグフトック・ラインベール。卑しくも地獄から舞い戻ってまいりました。この命――完全に尽き果てるまで、あなたさまにお仕えいたしましょう」
「はは……頼もしい。なんだか見違えたな。よろしくな、グフトック」
人は死や挫折を乗り越えて成長するというが、彼こそがその見本だろう。
いまや以前のグフトックとはまったくの別人に、文字通り生まれ変わったのだ。
そんな彼を俺は友人として立派に思うし、今では信頼できる仲間だと思える。
◆
【あとがき】
いよいよ7月になりました。
確定レアドロップ書籍版は7月5日発売です!
ぜひご購入くださいませ~!
2巻3巻と続刊できるとうれしいです!
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