第八章 魔界決戦 編
第171話 グフトック
「ロイン王――いや、ロイン。俺を殺してくれ」
グフトックの言葉に、俺は息をのんだ。
正直、言葉を失った。
それはどれほどの覚悟なのだろうか。
なにより、そんな衝撃的な言葉が、ほかでもない――あのグフトックという男から発せられたのだというのが、いまだに信じられなかった。
かつて、俺のことを無能だと追放したやつがだ。
『ロイン、お前は追放だ――』
そう言ったのと同じ口で、こんどは俺に『俺を殺せ』と言ってきている。
そこに至るまでにいろんなことがあった。
だが、彼のあまりにもの変わりようには驚きを隠せない。
それだけの覚悟だということだろうか。
グフトックは今、どんな気持ちでそれを発しているのだろう。
「お、おい……グフトック……お前、本気なのか……?」
「俺は……ロイン……あんたに取り返しのつかないことをしてきた……。正直、俺はいくら恨まれてもしかたがないと思っている」
「グフトック……」
グフトックは少しうつむいて、罪を神にでも懺悔するように言葉をつむいでいった。
「それなのに……それなのにだ。あんたは俺を恨むどころか、こうしてもう一度人生をやりなおすチャンスまでくれた! もともと一度は死んだも同然の命だ……! 使ってくれ!」
「グフトック……でも……」
「俺は悔しいんだ! 俺はなにも得られなかった! 人生をやり直せると思っても、俺には結局なんにもできなかった! だけど、せめてあんたの役にだけはたちたいんだ! だからお願いだ――
――お願いします、ロイン王。俺を……殺してください」
グフトックの目から本気の覚悟が伝わってきた。
正直、バカげた提案だと思う。
そんなことは倫理的にもどうかと思うし、俺だってやりたくない。
以前のグフトックならまだしも、今のこの痛々しいまでに献身的なグフトックを、無残に殺すなんてことはとてもじゃないができない……。
「おい……そうは言うが……死ぬってのは痛いんだぞ……それもものすごく。お前の想像する以上にだ!」
俺は以前一度死んで不死鳥の首飾りで生き返った過去がある。
その経験からしても、もう二度とは死ぬ苦しみを味わいたくはないと、身に染みて思っている。
あの苦痛をグフトックに体験させることになると思うと、他人ごとながらぞっとする。
たしかに、今の俺たちには世界樹の霊薬というアイテムもある。
あれを使えば、一度死んだグフトックを蘇生することだって可能だ。
だが、本当にそんなことをしてもいいのか……?
グフトックからレアドロップアイテムを取り出すためだけに、彼を殺すなんてこと……倫理的に許されるのだろうか。
それをやってしまったら、なにかを失うような気さえする。
アレスターのときは、彼が死にかけていて、あまりにも苦しそうだったから介抱しただけだ。
だがグフトックはそれとはまったく違う。
そんな命をもののように考えて、本当にいいのだろうか……。
蘇生できるからといって、それで失われるものは本当にないのだろうか。
俺がそうやって考えていると、グフトックが急になにかを決断したような顔つきになった。
そして彼はふところからナイフを取り出し――。
「ロイン王……もうこれしかないんですよ。あんたには、俺を殺すだけの十分な理由と、その権利がある……!」
――なんと彼は自分自身の腹を引き裂いた。
――ズシャアア!!!!
――ドバドバドバドバァッ!!!!
グフトックはそのままはらわたをナイフでえぐり、とりかえしのつかないまでに傷口を広げる。
「っぐあ……ああああああああ!!!! いでえええああああああ!!!!」
断末魔の悲鳴とは、まさにこのことだろう。
だがしかし、グフトックは必死に気を失わないようにこらえている。
「ばっ……馬鹿野郎…………!!!!!」
俺は思わず叫んでいた。
前から馬鹿なやつだとは思ってはいたが……こいつはとんだ大馬鹿野郎だ。
なにも俺への贖罪のために、そこまでするなんて……。
本当に、大馬鹿だ。
「ロイン……! はやくしろぉ! 俺を殺してくれぇ……! はやくこの痛みから解放してくれよ! そのついででいい、レアアイテムもくれてやる! さあ! はやく! 俺が憎いだろう! 俺を殺せ!」
「……っ!」
俺はあまりにもの衝撃的な光景に、言葉をうしなった。
「ここまでしても俺を殺せねえか!? さすがはスライムすら倒せないへっぽこロインだなぁ! やっぱ強くなっても腰抜けのままなのか!? この雑魚! いくじなしめが!!!!」
「ああもう! わかったよ! この大馬鹿野郎! 大人しく地獄で眠れると思うなよ! すぐに蘇生させてやるんだからなぁ!」
――グサ!!!!
俺は一思いにグフトックを殺した。
最後に俺を煽るようなことを言ってきたのも、俺が殺しやすいためなのだろう。
本当にどこまでもアホなやつだ……。
グフトックの痛みを想像すると、吐きそうなくらいだった。
だが、俺は耐えて淡々とレアアイテムを拾う。
グフトックも耐えたのだから、俺もこの現実と向き合おう。
まさかグフトックなんかのために、涙を流すことになるとは思わなかった。
「ありがとう……すまない、グフトック……」
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【あとがき】
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🎄森の奥の大賢者~魔力ゼロのゴミと言われ大魔境に捨てられたけど、最強のドラゴンに拾われ溺愛される~記憶がないけど2度目の人生らしいので2倍のスキルスロットと史上最強の魔法適正で非常識なまでに無双します
https://kakuyomu.jp/works/16817330649133742666/episodes/16817330649133790136
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