第152話 四天王・智将ジェスターク


※三人称視点



 魔界の四天王が一人、ジェスタークはゲートを通り、人間界を訪れた。

 彼がまず降り立ったのは、ユーラゴビス帝国という場所だ。

 ユーラゴビス帝国といえば、元ヨルガストン帝国(現アルトヴェール帝国ヨルガストン)と国境を隣接する大国だ。

 軍事力に秀でた大国で、多くの騎士を備えている。


 ヨルガストン帝国がロインの傘下に下ったのも、このユーラゴビスが原因の一つであった。

 ユーラゴビスの王、ユィン・ユーラゴビス23世はかねてからヨルガストンの地を狙っていたのだった。

 テンペストテッタ防衛戦にて消耗したヨルガストンを、ユーラゴビスが狙っていたのを、戦争を回避するため、アルトヴェールに併合された形であった。

 当然、そのことは魔界側にも水晶を通じて知れていた。


 ジェスタークはそれを利用しない手はない、と考えたのだった。

 うまくユーラゴビスをたきつけ、アルトヴェールに進軍させる。

 そうすれば、なにもわざわざ魔界のゲートからモンスターを送り込まなくても、現地で兵をそろえられるというわけだ。


「まったく、デロルメリアも馬鹿な男だ。私のように人間を駒にしてしまえばいいものを……っくっくっく」


 人間の姿に変装しながら、ジェスタークは不敵な笑みをこぼす。

 彼の姿はほぼ人間と相違なかったが、頭の角だけが目立った。


「デロルメリアめ、魔物製造に魔力をまわしすぎて、ぬかりおったな……。あそこでロインを始末できていれば、今頃こうはならなかったというのに……ふん。まあいい、ここで私が活躍し、魔王さまに認めてもらうチャンスだ」


 ジェスタークは旅の吟遊詩人兼占い師のふりをして、ユーラゴビスの王城へ潜入した。

 そういった客人を招くのも、多くの王のささやかな楽しみであった。

 もちろん最初は警戒されたが、彼の類まれなる人心掌握術の前では、人間など他愛もなかった。

 あの手この手をつかって、ジェスタークはユーラゴビスの王に取り入った。


 魔族である彼からすれば、人間程度にできる占いなどとは比べ物にならないほどのさまざまな呪術を使える。

 何も知らないユィン・ユーラゴビス23世からすれば、ジェスタークは突如降って湧いた優秀なるメンターであった。

 あっという間にユィンは心を許し、周りの臣下たちが不思議に思うほどにジェスタークとの仲を深めていったのだった。

 ジェスタークに男色の気はなかったが、そのくらい、まったく抵抗のないことだった。

 ユィンは人間としても美しい美男だったし、拒む理由は特になかったのだ。

 その辺の感覚は、魔族界で暮らすジェスタークと、普通の人間とではまた違うのかもしれなかった。

 とにかく、ジェスタークはまたたくまにユィンの右腕として、ユーラゴビスに欠かせぬ人物となっていった。

 この間、わずか半月ほどである。

 その間に、ロインのほうはさして進展もなく、情報を集めるだけの日々が続いていた。

 ロインは魔王軍が最近攻めてこないことを疑問に思っていたが、特に問題視はしていなかった。

 平和であるなら、それが一番だと言う風に。

 だが、それが嵐の前の静けさであったことなど、まだ彼は知る由もないのだ――。

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