第151話 魔界会議


※三人称視点



「ロイン・キャンベラスめ……ついに魔鏡デモンズペインまであと一歩に迫りおったか……」


 魔王デスマダークは、水晶を見つめながらそうつぶやいた。

 彼らは逐一ロインたちの動向をチェックしている。


「このままでは、やつらの方から魔界に乗り込んでこられてしまう」

「そうですね……困りました……」


 右腕である魔界将軍ガストロンが相槌をうつ。

 彼らにとっても、これは死活問題だった。

 これまでは魔界から定期的に刺客を送り、ロインたちを苦しめてきた彼らであったが、今度は自分たちが追われ、脅かされる身になるのだ。


「わざわざ異世界から転生させてきたゴウンとかいう男もやられてしまいましたからね……」

「なんとかならぬのか! この無能どもめ!」


 ふがいない魔王軍の活躍に、デスマダークは怒り心頭だった。

 今まで魔界で一方的に高みの見物をしていた彼らが、初めてロインという脅威にさらされているのだ。

 狩る側が狩られる側に回る恐怖。

 その脅威を、彼らはここ毎日ひしひしと感じていた。


「魔王様、ここはわたくしに策があります」

「おお……! お前は……!」


 現れたのは、長身の男。

 魔王軍の幹部の一人であるジェスタークだった。

 彼は非常に知能の高い悪魔で、魔王軍の参謀であり、また左腕でもあった。


 見た目はいたって普通の人間なのだが、その目は緑で髪の毛もまた緑であった。

 大きな角が特徴的だ。

 長髪でマントを羽織っている。

 そんな彼は、悪魔であり魔人であり人間とのハーフ魔物でもあった。


「それで、策というのは?」

「その魔鏡デモンズペインとやらを、破壊してしまえばよいのです」


 ジェスタークはなんのこともないというふうに言った。

 魔鏡デモンズペインの存在は魔界の彼らにまで知れ渡っていた。

 もともとはそんなもの知らなかった彼らだが、水晶でロインの動向を追っているうちに知ったのだ。

 もちろん、ロインにも他の手段が残されていないことも知っている。


「だが、あのロインとかいう男はもはや手のつけようもないくらいに強くなっているのだぞ……!? それも、先代魔王を打ち砕いたあの先代勇者をもしのぐやもしれんほどに……!」

「ええ、それはわかっています」

「しかも、我々はまだ自由にあちらへ行き来できるわけではない。以前のように、また異世界人を送ることもできるが……」


 魔王デスマダークは、完全にロインを恐れていた。

 当然だ、今まで自分が死ぬなどとは思いもしなかった存在。

 それが急に、脅威となるものがすぐ眼前まで差し迫っている。

 恐れというものを知らなかった彼らだからこそ、その対処の仕方もまた、知らなかった。


 デスマダークの代わりに、次はガストロンが口を開いた。


「我々四天王が人間界に渡ろうにも、魔力の量からして今だとせいぜい一人が限界だ。特に私の場合は体の大きさ的にも、ゲートをくぐることは難しいだろう……」

「わたくしが行きますよ。ガストロン将軍は魔界でおとなしくまっていてください」

「なに……!? ジェスターク、お前が……?」

「ええ、私なら人間サイズなのでゲートも通れます。それに、魔力の量もみなさんと比べると少ない」


 ジェスタークは人間とのハーフでもあったので、それも可能だった。

 しかし、そんな彼一人、人間界に渡ったところで、ロインに勝のは難しいというのが現状だった。


「だが、非戦闘員のお前が行ってなんになる……!?」

「ふん、これだから図体ばかり大きい魔族の連中は……」

「なに……!? きさま、言葉がすぎるぞ!」

「わたくしのように頭を働かせればいいのです。なに、簡単なことです」


 ジェスタークは人間の知能も兼ね備えており、ひじょうに高度な思考が可能だった。

 人間に化けることもできるので、潜入にはもってこいだ。


「では、どうやるのだ……!」

「人を使うのです」

「なに? 人を……?」

「人を煽動し、国を動かす……! そうすれば、彼らは勝手に崩壊しますよ。人間とは、そういう生き物です」

「ふむ……よくわからないが……もうそれしか方法はない。お前に託すぞ……!」

「任せてください。わたくしが、必ずそのロインとやらを打ちのめしてみせますよ。魔族と人間、どちらがすぐれているか……はっきりさせます。そのどちらの血も持つ私だからこそ、すべてを掌握できるのです!」


 ジェスタークは自信満々に、人間界へのゲートをくぐった。

 これで、もはや魔王軍に打つ手はない。

 今後もっとゲートが開き、多くの魔物が通れるようになれば、まだ策はあっただろう。

 しかし、その前にロインが魔界に乗り込んでくるのが先だ。

 ジェスタークがなんとかできなければ、そうなってしまう。

 そして乗り込んできたロインを倒すことができたとしても、魔界に対する損害は計り知れないだろう。

 彼らはそれだけロインの実力を正しく評価していたし、理解していた。

 魔界に残った彼らにできることといえば、ただ備えることだけだ。


「よし、念のため、魔界軍の増強を行う! 演習もだ! かかれ!」


 魔界将軍ガストロンは、部下たちにそう命じた。

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