第141話 助けられた男
俺は勇者アレスターを復活させるべく、奴の墓を訪れた。
さっそく、墓へ向けて世界樹の霊薬を垂らしてみる。
すると――。
◆
【side:アレスター】
ん……ここは……どこだ……?
ぐああああああああ痛い!
身体中がひどい痛みだ。
それに、もうずいぶん長く眠っていた気がする。
全然体が動かない。
いったい俺の身に、なにが起きたのだろうか。
記憶も混濁している。
「…………おい、おい」
そんな俺を呼ぶ声が、遠くの方から聴こえてくる。
身体を揺さぶられたりして、しばらくしてからようやく目を開ける。
「ん……」
すると、そこにいたのは。
「うわ……!?」
「おお、起きたか」
「な、なんでお前がここに……!?」
目覚めた俺を出迎えたのは、あのロイン・キャンベラスだった。
俺を倒し、俺に恥をかかせたあいつだ。
「まあ、落ち着け。今はとにかく目覚めたばかりだから、その……ゆっくりな。話をしよう」
「は、はぁ……?」
なにを言ってるのだろうかこいつは。
まったく理解できない。
ロインはふらふらな俺を優しく支えてくれ、立ち上がらせてくれた。
どういう状況かまったく理解できない。
なんでこいつが俺を助けているんだ……?
「な、なにをするんだ……!」
「いいから、俺につかまれ」
「うわ……!?」
ロインがなにやら唱えると、一瞬にして景色が切り替わった。
そこは、どこか有名な王国の城といった場所だった。
その中の、巨大な一室。
俺はすぐに、ベッドに寝かされる。
そして、食事や、着替えなどが運ばれてきた。
「とりあえず落ち着くまでは俺が面倒を見る。だからまずは休んでくれ」
「は、はぁ……?」
まったく状況が読めない。
なんで俺に優しくするんだこいつは……?
俺はこいつに、あれほどひどいことをしたというのに。
ロインのほうは、まるで気にしていないようなそぶりだ。
ついこの前、あんなことがあったのにも関わらず、俺を助けるなんて。
しかもここはどこなんだ……?
あいつの城なのか?
さっきロイン王などと呼ばれていたし、わけがわからない。
俺に器の大きさをアピールしているのだろうか。
奴の手厚いもてなしに困惑しながらも、俺はありがたくベッドに倒れこんだ。
もうずっと眠っていた気がするが、とにかく体が休息を求めている。
俺はそのまま、死んだように眠った。
◇
あれからまた、どのくらい眠ったのだろうか。
目覚めて、しばらく過ごしているうちに、なんとなくだが、状況が見えてきた。
俺はたしかに、あのロインに助けられたようだ。
そして、ここはロインの国であるアルトヴェール。
この城も、ロインのものらしい。
だが、俺の知るロイン・キャンベラスとは全く違っていた。
あいつはついこないだランキング5位に上がってきたばかりの、新人冒険者だったはずだ。
それが、どういうことだ?
なぜ国なんかを構えて、多くの人に慕われている?
しかもロイン自身の顔つきや、体つき、纏う雰囲気までもがまるで違っていた。
前のあいつはもっと優男という感じだったが、今は覇気にあふれた王者の風格をまとっている。
どうやら俺は、かなり長い間眠っていたらしい。
その間に、世界はまるで変ってしまっていた。
俺の寝かされている部屋に、パーティメンバーの姿はない。
「そうだ……俺の、仲間たち……」
ぼんやりだが、思い出せる。
正確に思い出そうとすると、記憶に靄がかかったかんじになる。
「そっか……助けられたのは、俺だけなの……か……?」
どうもこの城の中に、あいつらがいるような形跡はない。
一緒に助けられたということもなさそうだ。
つまり……そういうことなのだろうか。
「俺だけ……助かった……クソ……!」
だが不思議と、涙が流れない。
まるで心が空っぽになったように、どこまでも空虚だった。
◇
数日して、ようやく自分で起き上がれるまでに回復した。
今日、ロインのほうから改めて、説明と話し合いがあるそうだ。
俺をなぜ助けたのか、なにを企んでいるのか、そもそもなにが起きたのか。
俺はそれを、知る必要がある。
朝、俺は目覚めて、自分で着替えをする。
これまでは使用人のような人が助けてくれていた。
そこで、俺は初めて気づくことになる。
自分の肉体の変化に――。
「こ、これは……」
鏡の前に立って、俺は絶句する。
そこに映っていた俺は、かつての輝かしいアレスターではなかった。
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