第141話 助けられた男


 俺は勇者アレスターを復活させるべく、奴の墓を訪れた。

 さっそく、墓へ向けて世界樹の霊薬を垂らしてみる。

 すると――。





【side:アレスター】


 ん……ここは……どこだ……?

 ぐああああああああ痛い!

 身体中がひどい痛みだ。

 それに、もうずいぶん長く眠っていた気がする。


 全然体が動かない。

 いったい俺の身に、なにが起きたのだろうか。

 記憶も混濁している。


「…………おい、おい」


 そんな俺を呼ぶ声が、遠くの方から聴こえてくる。

 身体を揺さぶられたりして、しばらくしてからようやく目を開ける。


「ん……」


 すると、そこにいたのは。


「うわ……!?」

「おお、起きたか」

「な、なんでお前がここに……!?」


 目覚めた俺を出迎えたのは、あのロイン・キャンベラスだった。

 俺を倒し、俺に恥をかかせたあいつだ。


「まあ、落ち着け。今はとにかく目覚めたばかりだから、その……ゆっくりな。話をしよう」

「は、はぁ……?」


 なにを言ってるのだろうかこいつは。

 まったく理解できない。

 ロインはふらふらな俺を優しく支えてくれ、立ち上がらせてくれた。

 どういう状況かまったく理解できない。

 なんでこいつが俺を助けているんだ……?


「な、なにをするんだ……!」

「いいから、俺につかまれ」

「うわ……!?」


 ロインがなにやら唱えると、一瞬にして景色が切り替わった。

 そこは、どこか有名な王国の城といった場所だった。

 その中の、巨大な一室。

 俺はすぐに、ベッドに寝かされる。

 そして、食事や、着替えなどが運ばれてきた。


「とりあえず落ち着くまでは俺が面倒を見る。だからまずは休んでくれ」

「は、はぁ……?」


 まったく状況が読めない。

 なんで俺に優しくするんだこいつは……?

 俺はこいつに、あれほどひどいことをしたというのに。

 ロインのほうは、まるで気にしていないようなそぶりだ。

 ついこの前、あんなことがあったのにも関わらず、俺を助けるなんて。


 しかもここはどこなんだ……?

 あいつの城なのか?

 さっきロイン王などと呼ばれていたし、わけがわからない。

 俺に器の大きさをアピールしているのだろうか。

 奴の手厚いもてなしに困惑しながらも、俺はありがたくベッドに倒れこんだ。

 もうずっと眠っていた気がするが、とにかく体が休息を求めている。

 俺はそのまま、死んだように眠った。





 あれからまた、どのくらい眠ったのだろうか。

 目覚めて、しばらく過ごしているうちに、なんとなくだが、状況が見えてきた。

 俺はたしかに、あのロインに助けられたようだ。

 そして、ここはロインの国であるアルトヴェール。

 この城も、ロインのものらしい。


 だが、俺の知るロイン・キャンベラスとは全く違っていた。

 あいつはついこないだランキング5位に上がってきたばかりの、新人冒険者だったはずだ。

 それが、どういうことだ?

 なぜ国なんかを構えて、多くの人に慕われている?

 しかもロイン自身の顔つきや、体つき、纏う雰囲気までもがまるで違っていた。

 前のあいつはもっと優男という感じだったが、今は覇気にあふれた王者の風格をまとっている。


 どうやら俺は、かなり長い間眠っていたらしい。

 その間に、世界はまるで変ってしまっていた。

 俺の寝かされている部屋に、パーティメンバーの姿はない。


「そうだ……俺の、仲間たち……」


 ぼんやりだが、思い出せる。

 正確に思い出そうとすると、記憶に靄がかかったかんじになる。


「そっか……助けられたのは、俺だけなの……か……?」


 どうもこの城の中に、あいつらがいるような形跡はない。

 一緒に助けられたということもなさそうだ。

 つまり……そういうことなのだろうか。


「俺だけ……助かった……クソ……!」


 だが不思議と、涙が流れない。

 まるで心が空っぽになったように、どこまでも空虚だった。





 数日して、ようやく自分で起き上がれるまでに回復した。

 今日、ロインのほうから改めて、説明と話し合いがあるそうだ。

 俺をなぜ助けたのか、なにを企んでいるのか、そもそもなにが起きたのか。

 俺はそれを、知る必要がある。

 朝、俺は目覚めて、自分で着替えをする。

 これまでは使用人のような人が助けてくれていた。

 そこで、俺は初めて気づくことになる。

 自分の肉体の変化に――。


「こ、これは……」


 鏡の前に立って、俺は絶句する。

 そこに映っていた俺は、かつての輝かしいアレスターではなかった。

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