第142話 唯一の手掛かり
【sideアレスター】
「うわあああああああああああああああ」
俺は鏡に映った自分の醜い姿に絶句した。
そこに映っていたのは、かつての若々しい金髪の好青年ではない。
見知らぬ老人の姿が映っていたのだ。
「こ、これが……俺なのか……!?」
いや、老人というのは違うのかもしれない。
確かにそれは俺の身体だったが、ひどくくたびれたものだったのだ。
しわや傷が無数にあり、背筋も曲がっている。
顔もくまがひどくて別人のようだ。
「うわああああああ……」
しばらく落ち込んだ後、俺は服を着替えてロインとの面会の準備をする。
いつまでもへこんでなんかいられない。
俺は、知らねばならないのだ。
俺自身の身に起きたこと、それから、これからのこと……。
◇
「よく来てくれた、アレスター」
「……ロイン……!」
俺は、ロインへの謁見の間に通され、二人きりになる。
くそ、あのロインのくせに、なにが謁見の間だ。
偉そうに王様気取りで、癪に障る。
しかし、そんな俺の反抗的な態度など意にも介さないロイン。
ロインは俺の身体を気遣い、とことん世話してくれた。
「もう体は大丈夫か……? 長い眠りだったからな。体力も衰えているだろう。いろいろ、休養が必要だ」
「あ、ああ……その点は、感謝している……」
思わず、俺はほだされてしまう。
どこまでお人よしなんだこいつは……。
これが、王者の風格というものなのだろうか。
「それで、知りたいことがたくさんあるだろう」
「ああ、俺になにが起きたのか、教えてくれ!」
「よし、まずは順を追って話そう」
ロインは俺に、事の顛末を伝えてくれた。
俺が魔王軍に挑み、死んだこと……。
それから、俺の仲間もみな死んだこと。
魔王軍はロインが退けたこと。
それから、ロインが俺を、貴重なアイテムを使ってまで蘇生させてくれたこと。
「そ、そうだったのか……」
俺は、感服する思いだった。
身体中の力が抜け、あきらめがつく。
最初から、ロインに勝てるはずがなかったのだ。
彼はこんなにも偉大なことをなしとげ、そして俺に情けをかけてくれたのだ。
そんな男に、俺がかなうはずもなかったということだ。
「そうとも知らずに……。俺はなんと無礼なことを……」
「いいんだ。なれあうつもりはない」
「いや……! ロイン……。いやロイン王! 俺を生き返らせてくれて、本当に感謝します!」
俺はロイン王への忠誠を誓った。
あれほど傲慢だった俺を救い、こうしてすべてを与えてくれた。
そんなロイン王への対抗心や憎しみは、完全に消え失せていた。
◆
【sideロイン】
「うーん、大げさだな。まあいいけど……」
別に俺は、こいつに感謝されたくてよみがえらせたわけじゃないんだけどな……。
まあ、こうやってしおらしくいてくれていたほうが、こっちも都合がいいか。
また前みたいに突っかかってこられても面倒だしな。
アレスターはああいう性格だけど、案外、恩義には報いるタイプなのかもしれん。
「それで、アレスター。お前を蘇生させたのには、理由があるんだ」
「はい……!」
「俺のために少し、力を貸してほしい。魔王軍に対抗するために、お前が手掛かりになるかもしれないんだ」
「もちろんです……! ロイン王。なんでもいたします!」
よし、アレスターが協力的でよかった。
これでなんとか聞き出せそうだ。
「魔王を倒すため、俺は魔界に渡る必要がある。なにか手がかりを知らないか……?」
「魔界……ですか……うーん、あ……!」
「なにか知ってるのか……!?」
「昔、うちの祖父が言ってたことがあります……。なんでも、【魔鏡デモンズペイン】とかいうレアアイテムを使えば、魔界へ渡ることができるとか……」
「おお……! それは知らない情報だ!」
アレスターの情報がどれほど確かかはわからないが、少なくとも今は他に情報がない。
だが、そのアイテムを手に入れるにしても、どうすればいいんだ……?
アレスターはそこまでは知らないというし……。
そんなレアアイテム……魔物からのレアドロで手に入るのかも怪しい……。
これは八方ふさがりだぞ……。
「とにかく、情報ありがとう」
「いえ……こちらは命を蘇生させてもらってるので、このくらい」
「あ、そうだ。蘇生といえば……アレスター。あっちの部屋にみんな待ってる」
「え……? みんな……? それはどういうことでしょう……?」
俺は、アレスターに指をさして隣の部屋に移動するよう促した。
実は、彼が眠っている間にも、いろいろやっていたことがあるのだ。
◆
【sideアレスター】
俺は、ロインに促され、隣の部屋に移動した。
なんとそこには、俺のかつての仲間たちがそろっていたのだ。
「ゲオルド……モモカ……エレナ……?」
彼らは俺と同じく、かつての姿を失っている。
みなやつれて、別人のようにしおれている。
だが、間違いなく俺の仲間たちが、そこにはいた。
「「「アレスター……!」」」
俺たちは涙して抱き合い、再会を喜び合った。
振り向くと、ロインがそこにいた。
俺は、この人に感謝してもしきれない……。
「ロイン王……本当に……なんといったらいいか……」
「いいんだ。世界樹の霊薬はまだ余ってるしな。生き返らせれる人物をほったらかしにしておくほど、俺は非道じゃない。それに、お前たち元勇者パーティにはいろいろしてもらうことがある」
「は、はい……! なんでもいたします……!」
俺たちはロイン王への忠誠を誓い、何度も何度も感謝した。
そしてかつての自分たちの行いを、恥じ、後悔した。
これからは、この拾ってもらった命、ロイン王のために捧げよう。
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