第135話 レジェンダリードラゴン


「なに……!? 俺たちの攻撃が効いていないだと……!?」


 ステータスを大幅に上昇させてきたにも関わらず、俺たち三人の攻撃はレジェンダリードラゴンにはまったくの無意味だった。

 それを当然のこととあざ笑うようにネファレムがいう。


「ふわっはっはっは! レジェンダリードラゴンには特別な魔力障壁があるからなぁ! だがこのくらいの魔力障壁、破れないようでは魔王にはとうていかなわんなぁ!」

「っく……また魔力障壁……そういうことか……」


 以前の第一階層でのボスであるトレントにも同じく魔力障壁が施されていた。

 あの時は覚醒ポーションを使ってなんとかなったが……。

 今回はあれからさらにステータスを上げているので、あの時の覚醒状態よりもさらに強くなっているはずだ。

 それなのに障壁を破れなかったということは、それだけあのレジェンダリードラゴンの魔力障壁が強力だということ……。

 並みの攻撃では破れそうにないな……。


「グオォ……!」


 俺たちの攻撃が大したことないと悟ったのか、レジェンダリードラゴンは一気に反撃の態勢に出た。


「くるぞ……! 気をつけろ……!」


「グオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 ――ゴオオオオオオオオオオ!!!!


 レジェンダリードラゴンは俺たちに向かって灼熱の火炎を吐き出した。

 クラリスはすかさず俺たちをかばうようにして前に出る。


「私が守るから!」

「クラリス……!」


 だがしかし――。


「え……!? な、なんで……!?」


 火炎放射を受けたクラリスの盾は、なんとどんどんと溶けていってしまっている。

 このままでは、俺たち全員まる焦げだ。


「ふわっはっはっは! 魔力障壁を持たないお前たちなど、レジェンダリードラゴンの前では紙屑も同然だ!」


 とネファレムが盾の後ろで言っている。


「ってこのままだとお前もまる焦げだけどいいのか……!?」

「あ……! し、しまったぁ……!」

「オイオイ……」


 まったく、やっぱりこのダンジョンマスターさんアホだ……。

 そうこうしているうちに、クラリスの盾ももう持たない。

 レジェンダリードラゴンはここぞとばかりにドラゴンブレスを吐き続けている。

 この一息で俺たちを灰と化すつもりらしい。

 くそ……!

 こうなったら……!


「クラリス……! 盾を放すんだ!」

「で、でも……!」

「いいから……! このままだとクラリスの手が……!」

「わ、わかった……!」


 俺はクラリスに盾を捨てさせた。

 そして、俺が身を挺してドラゴンブレスの前に立ちふさがる。


「ロイン……!? 危ない……!」

「俺は大丈夫だ……!」


 その瞬間――。

 ――キュィンという音とともに、ドラゴンブレスは一気に消え去った。


「な、なにが……!?」

「俺の勇者の指輪による加護だ」

「あ、そういえば……!」


 そう、俺の持つ勇者の指輪には一度だけ俺を守ってくれる加護がある。

 この加護にはこれまでに何度も助けられてきたな……。

 そのおかげで以前にもドラゴンブレスから生き残ることができたっけ。

 だが――。

 状況はあまりよくない。

 俺たちの攻撃は効かなかったし、クラリスの盾もドロドロに溶かされてしまった。

 どうする……!?


「ロイン……! どうする……!?」


 カナンが不安そうに尋ねる。


「そうだな……。ここはなんとかして攻撃を通すしかない。もう守る方法はないんだ。こうなりゃ背水の陣。攻撃が最大の防御だ!」

「そ、そうね……! でもどうやって!?」

「これをつかうしかないな……!」


 俺は第一階層でも使用した覚醒の秘薬を取り出した。

 これを飲めば、攻撃力が倍になる。

 今はクラリスとカナンもかなりのステータスになっているから、三人ともがこれを飲めばかなりの攻撃力になるだろう。


「よし……! 飲みましょう……!」


 俺たちは一口ずつ覚醒ポーションを回し飲みした。

 前回は瓶まるごと一気飲みしたせいで大変なことになったからな……。

 レジェンダリードラゴンはというと、どうやらさっきのブレスでかなり消耗したらしく、呼吸を整えているようだ。

 今のうちだな……!


「よし! いまだ……! いくぞおおおおおおおおおおおお!!!!」


 俺たちはもう一度、攻撃を繰り出した――!

 ――ズドーン!!!!

 だがしかし――。


「こ、これでもダメなの……!?」

「くそ……! 魔力障壁ってのはそんなにヤバいのか……!?」


 こうなったら、もっとステータスを上げるしかない。


「覚醒の秘薬はまだある……。これを今度は一本ずつのもう……!」


 俺は二人にもポーション瓶を手渡した。


「で、でもロイン……これを丸のみしちゃうと……また大変なことになるんじゃ……」

「おう、そうだな……。でもそのときはそのときだ!」

「えぇ……もう! しょうがない……! えい……!」


 意を決して、俺たちは覚醒の秘薬を飲み干した。

 まあ大変なことになるといっても、一晩経てば正常に戻る程度のものだ。


「うおおおおお! 力がみなぎるぞ……!」

「ほんとだ……!」「すごいわ……!」


 俺たちは体中の血液が沸騰したように熱くなった。

 だが、それはつまり――。


「なんだかクラリス、カナン……お前たち妙に艶めかしくないか……?」

「へ……? な、なにを言ってるの!? 戦いの最中なんだよ!」「もう、ロイン……!」

「す、すまん済まん……」


 覚醒の秘薬をのんだ二人は、なんだか風呂上りのように顔が紅潮していてちょっとえっちな雰囲気をまとっていた。

 これは一種の媚薬なのか……?

 まあ生命力を上げるということはそういうことでもあるのだろう。


「ていうかロインこそ……!」

「え…………?」

「なんかいつもよりカッコいいんだけど……」

「そ、そうか……?」


 敵前だというのに俺たちは何をやっているんだ……。


「おい、二人とも……! 来るぞ……!」

「あ、ああ……すまんすまん」


 カナンに言われてようやく俺たちは戦いに戻る。

 覚醒の秘薬を飲んでちょっとえっちな気持ちも高まってしまったが、これで攻撃力も急上昇だ。

 興奮が冷めないうちに、さっさとこいつを倒してしまおう。


「よし、さっさとこいつを倒して帰ってベッドにいくぞ……!」

「そ、そうね……」「う、うん……」


 なんともアホな理由で士気が上がる俺たちであった。

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