第126話 偽物の勇者?


「遅かったではないか勇者よ……」


 俺を見るなり、謎の少女はそう言った。

 なぜ彼女が俺が勇者であることを知っているのか。

 そもそも、なんでこんなところに他の人が……?

 疑問は尽きないが、とにかく俺は思いついたことを口にした。


「き、君は……?」

「私はネファレム。このダンジョンの管理をしている」

「ダンジョンの管理……?」


 まったく要領を得ない回答だ。

 とりあえず名前はわかったが、彼女の正体は不明なままだ。


「このダンジョンはいったいなんなんだ……?」

「ここはレジェンダリーダンジョン」

「レジェンダリーダンジョン……? サイハテダンジョンじゃないのか……?」


 さっきまで俺たちがいたのは、サイハテダンジョンだったはずだ。

 確かにダンジョンの壁の材質なども違っているし、明らかに雰囲気が異質だ。

 ダンジョンから別のダンジョンに転移したということなのか……?


「ここは古の神々たちの宝具が眠る、レジェンダリーダンジョン! そして私はお前をずっとここで待っていた!」

「うーん……? 俺を待っていた……!?」


 こんな美少女に、待たれていたというのはうれしいことだが……。

 そもそもいつから……?

 そしてなんで……?

 とにかく疑問が尽きない。


「お、俺にわかるように説明してくれないか……?」

「わかった。驚かせてしまったようだな。ではまずは事の発端から説明してやろう、勇者よ」

「あ、ああ……頼む」


 そしてネファレムと名乗った少女は、語り始めた。


「その昔、ある勇者が魔王を退けた。そう……あれはもう500年以上も前の話になるか……」

「500年……!? じゃ、じゃあネファレムちゃんはそんな昔から……?」


 途方もない数字に、クラリスが驚きの声を上げる。


「うむ、そうだ。私はもうずっとここで勇者を待ち続けていた」

「もう何を聞いても驚かないぞ……」


 俺は覚悟を決めた。

 このネファレムという少女の言うことがどこまで本当かはわからないが……。

 少なくとも俺たちの知っている情報よりもこの世界に詳しそうだ。

 だんだんと確信に近づいているのだろうか……?


「続きを話そう。その勇者は魔王を退けた後、自分の能力を次の世代に託すことはできないかと考えた」

「なるほど……」

「もちろん、大きすぎる力は危険を伴う。もしも素性の知れない悪人に渡れば、とんでもない災厄をもたらすだろう。だから勇者は、その力をダンジョンの奥深くに封印することにした……」

「それが……このダンジョンということか……」

「そうだ……」


 なんだかとんでもない話になってきたな……。

 500年前ということは、先代の勇者だろうか……?

 そういえばドロシーの家族が襲われたのも、500年前だったよな……?

 ドロシーの生きていた時代の勇者と、同一人物なのだろうか……?


「勇者は次の世代に、その力を様々な遺物として残すことにした。そしてダンジョンを作り出し、その遺物をモンスターへと設定した」

「ちょ、ちょっと待ってくれ……ダンジョンって……人間に作れるようなものなのか……!?」


 ネファレムの口ぶりからすると、その勇者ってのはとんでもない力を持っているように聞こえる。

 それこそ、神様と同じレベルだ。

 ダンジョンというのは、自然発生的なものか、魔族によって作られたものくらいしか聞いたことがない。

 ただの人間がダンジョンを作って、モンスターまで作り出すなんて話は、聞いたことがない。


「勇者なら可能だ。なにせ、魔王をもしのぐほどの男だったからな……」

「そ、そうなのか……」


 たしかに、魔王以上の実力者なら可能なのかもしれない……。

 でも、にわかには信じがたい話だ。


「それで……君はそのダンジョンの管理を任された……と」

「そういうことだ。ここまでたどり着く実力者であれば、勇者の真の力を引き継ぐにふさわしい」


 だけど……このネファレムという少女は……500年もここで待っていたということなのか……?

 それは、どのくらいの時間感覚なのだろうか……。

 彼女はそもそも、人間なのだろうか……?

 色々な考えが頭に浮かぶ。


「というか、どうして俺が勇者だと……?」

「そこに勇者の指輪をしておるだろう」

「あ、ああ……これか……」

「そこに描かれているライオス家の紋章――通称勇者紋こそが、なによりもの証拠だ。勇者ライオスよ」

「ん…………?」


 ネファレムの言葉に、俺は首を傾げた。

 今、こいつの言ったライオスって……あの、アレスター・ライオス……?

 俺に挑んで、その後勝手にデロルメリアに殺された……あの勇者パーティーの?


「ん……? だから、ライオスじゃろ……? お前の名前は」


 ネファレムは不思議そうに俺の顔を見る。

 これは……困ったことになったかもしれない……。


「えーっと……非常に言いにくいことなんだけど……俺、ロイン・キャンベラスっていうんだよね……」

「は…………? じゃ、じゃあ……お前、勇者じゃ……ない……?」

「いやぁ……どうなんだろう……ね……?」

「こ、これは困ったことになった……」


「え…………?」

「勇者の血を引かぬものをダンジョンに入れてしまった……。これは管理者として失格なのでは……」


 ネファレムはおろおろとしだした。


「お前、ここであったことは、なかったことにしてもらえぬか……?」

「ちょいちょいちょい……!」


 ネファレムは物騒にも、なにやらすさまじい武器を手に、こちらへにじりよってきた。

 なにがなんだかわからないが……これはピンチなのでは……!?

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