第127話 決意


 ネファレムは俺がライオス家のものでないとわかると、武器を向けてきた。

 彼女の持つ武器は、見た目からもわかるようにとてつもなく強力だ。

 きっとこれも、先代の勇者が残したという神々の遺物の一つなのだろうか。


「うおおおおおおおお! 悪いが死んでもらう!」

「っく……!」


 俺は死を覚悟した。

 いくら強くなった俺たちでも、適う相手ではなさそうだ。

 なにせ相手はかつて魔王を退けたという、先代勇者の力を持つ者。

 しかもネファレムはダンジョンの管理を任されるくらいだ。

 きっと彼女もそれなりの手練れだ。

 そう思った。

 俺は目を瞑り、剣を構えた。

 しかし――。


 ――キン!


「え…………?」


 俺の剣とネファレムの剣がぶつかり、折れたのは――。

 なんとネファレムの持つ宝具級の剣のほうだった。


「な、なななな……!? 私の聖剣ズァンダークが……!? お、折れた……だと……!?」


 ネファレムは俺以上に驚いて、信じられないという顔でこちらを見ている。

 そうか……俺の剣はなんでも斬れる剣、破龍の剣。相手が聖剣であろうとも、斬れないわけがないんだ!

 それにしても邪剣のような名前の聖剣だなぁ……。

 そんなことを思っていると、カナンが急にネファレムに詰め寄った。


「ふっふっふ! さすがロイン! これで私たちの力がわかったでしょう?」

「っく……貴様ら……何者なんだ……!?」


 やばい……このままカナンに任せていたら話がややこしくなる。

 できればこれ以上無用な戦いは避けたい。

 俺はにらみ合う二人を制止して、話をつづけた。


「……と、いうことなんだ……」


 俺は今までに、アレスターと俺たちの間にあったことを話した。

 ネファレムはなかなか信じられないという顔をしながらも、ようやく話を飲み込んでくれた。


「なるほどな……。まあ、お前たちの力はわかった。だが、それでなんの証拠になる? もしかしたらお前たちが勇者から無理やり力を奪ったのかもしれないじゃないか……!」

「う……たしかにそういわれるとなぁ……」


 やはりネファレムとの衝突は避けられないのだろうか……。

 しかし、ネファレムはその後すぐになにやらアイテムを取り出した。


「まあ、これに聴いてみればわかることだ」

「これは……?」

「これは先代勇者の遺物の一つだ。人の嘘を見抜く力を持っている。通称、真実の口だ」

「おお……! これなら俺の言ってくることを証明できる!」


 それにしても、こんな便利なアイテムまであるとは……。

 先代勇者の遺物とやらはなんでもありなんだな……。

 まあ、サイハテダンジョンでさえも神がかり的なアイテムの数々があったわけだし……。

 その上のレジェンダリーダンジョンともなれば、このくらいのとんでもアイテムがあっても不思議じゃない。


「それで……これはどう使うんだ……?」

「ここに手を入れてくれ」

「わかった」


 俺は言われるままに、真実の口に手を入れる。

 それは手鏡のような、丸い石板に持ち手がついているアイテムだった。

 石板の中央に、顔が描かれていて、その口のところが空洞になっている。

 手を突っ込むと、不思議な感じがした。

 まるで手だけが異空間に転移したような感じだ。


「これで……どうやってわかるんだ……?」

「もしお前が嘘を言えば、その手はちぎれる」

「はぁ……!? んなもん使わせるなよ……!」


 そういう物騒なことは先に言ってほしい……。

 もう手を入れてしまったじゃないか……。

 まあ、俺は嘘なんて言うつもりないから、別に大丈夫だけど。

 なんだか不安になってしまうのは仕方がないだろう?


「ではロイン・キャンベラスよ。お前に尋ねる。先ほどの話は本当か?」

「ああ、本当だ」

「よし……信じてもよさそうだな……」

「ふぅ……」


 こうやって、俺たちはなんとかネファレムに話を信じさせることに成功した。


「つまり……今はロイン、お前が亡きアレスターに代わって、勇者をやっているということだな……?」

「ああ、そうだ」

「それにしても……ライオス家の血に選ばれた正規の勇者をもしのぐ人物が、存在するなんて……信じられない話だ……」

「そうなのか……?」

「ああ、勇者の血はそれだけ絶対のものだからな。先代勇者のライオス家初代頭首は、それだけ優秀な人間だった。まさか……この500年でその血も薄れてしまったのだろうか……」


 ネファレムは暗い顔をして肩を落とす。

 まあ、彼女からすれば、希望をもって待っていたその人物が、すでに他界していたということになるんだからな……。

 俺には関係のないことだが、少し気の毒に思ってしまう。

 500年も一人で待って、挙句の果てにその目的が遂げられなかったら……。

 そう思うと、俺はやるせない気持ちになった。


「っく……そうなると……すべてが狂ってくるな……」

「え……? そうなのか……?」

「ああ、先代勇者の作戦では、子孫にその力を託して、もう一度魔王を倒すつもりだったのだが……。その勇者がいないのではな……。このままでは、魔王を倒すことができない……。これまでか……くそ……」


 ネファレムは残念そうに、あきらめたような口調で言った。

 俺はそれに、違和感を覚えた。

 別に、魔王を倒すのに、血なんて関係ないんじゃないか……?

 だって、先代の勇者はライオス家を作った人なんだろう?

 だったら先代の勇者だって、最初はなにものでもなかったはずだ。

 先代の勇者も、魔王を倒したことで初めて勇者となった。

 まあそのさらに前の勇者と魔王がどうだったかまでは知らないけど……。

 とにかく、魔王を倒せさえすれば、なんでもいいはずだ。

 そして俺はそれを、目的にしている。

 ネファレムとここで出会うが出会わまいが、俺は最初からそのつもりだった。

 だから――。


「大丈夫だネファレム。安心してくれ」

「え…………?」


 俺はネファレムの頭にそっと手を置いた。

 こうして見ると、彼女も普通の小さな少女だ。

 彼女は俺の顔を見て、わずかに希望を取り戻す。

 そして俺は言った。


「魔王なら、俺が倒すから」

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