第122話 忠誠
「我々ヨルガストンは、あなた様に忠誠を誓います!」
「は、はぁ……!?」
俺は一瞬、理解ができなかった。
一国の王が、他の国の王に忠誠を誓う……?
それってつまり……。
「え……!? ちょ、ちょっと……! 本気ですか……!?」
「はい、もちろんです! 我々ヨルガストンを、ぜひアルトヴェール帝国領、ヨルガストンとしてお納めください!」
「そ、それは……!」
「もちろんあなた様にご負担はおかけしません! ただ、この国の象徴となっていただきたいのです! 国民も、それを望んでいます……!」
ソドム王は、俺に深々と頭を下げた。
そこまで言われてしまうと、俺も無下にはできない。
だが、これはそう単純な話ではない。
俺としては別に権力を拡大したいなどという野望はないのだ。
それに、国土が大きくなれば、守らなければいけないものも増える。
そもそも帝国というのは、いわゆる王国とはさらに一線を画した巨大な国のことを指す。
帝国に君臨する帝王が、多数の国を束ねているという感じだ。
そしてそれぞれの国に国王がいて、それぞれの領地を管理している。
つまり帝王が社長で、国王はその部下というイメージだろうか。
ヨルガストン帝国は、ただでさえ歴史ある大帝国だ。
そして我がアルトヴェールは、最近できたばかりの小国。
そんなアルトヴェールが、ヨルガストン帝国を吸収するということは、俺が一気に巨大な帝国を束ねる王に君臨するということになる。
「お、俺にそんな責任は負えませんよ……」
ことの大きさを考え、俺は困ってしまった。
そんな俺の言葉に、ソドム王は悲しい顔をする。
どうやら彼らは本気で俺に併合を望んできるようだった。
「ロイン王。あなた様ほどの力あるものならば、もっと大きなものを背負えるはずです。そしてあなたには、それをできるだけの力と、資格があります。恐れることはありませんよ」
「で、ですが……。俺にはアルトヴェールを守るだけで、精いっぱいです」
俺のその言葉に、ソドム王は驚いていた。
なにか変なことを言っただろうか。
「なにをおっしゃいますかロイン王。あなたさまはすでに、我が国をお救いになられたではありませんか」
「あ……確かに……」
「あなたはそういう偉大なお方です。周りに困っている人がいれば、それを見過ごすことなどできない。どのみちあなたは、手のとどく範囲すべてを、お救いになられる……そういう人です」
たしかに俺は、そもそも人類全体を背負って、魔族たちと戦っている身だ。
仮にアルトヴェール以外のところに魔族が現れても、俺はきっと戦いにいくだろう。
「でしたら、ヨルガストンも手中に収めてしまったほうが、あなたとしても都合がよいのでは? どのみち守るのであれば、そのほうがよいでしょう? なにせ我が国には、潤沢な資源と、人材があります。それこそ、アルトヴェールとはくらべものにならないほどの……」
彼の言っていることに、間違いはない。
ヨルガストンには、アルトヴェールとくらべものにならないほどの軍隊がある。
アルトヴェールの民には、俺が余ったレアドロップアイテムを潤沢に渡してあるから、質ではこちらが上だろう。
だが俺のもとでヨルガストンの軍隊を強化すれば、今以上のけた違いな軍事力が手に入ることは確かだった。
それに、正直ヨルガストンの資源もおいしい話だ。
アルトヴェールは国土としてはかなり狭く、将来の発展にも限界がある。
だがヨルガストンから潤沢な資源をやりとりできれば、相互に発展が期待できる。
だがどうにも、俺は言いくるめられているような気がしてしまう。
ソドム王……こいつは何を考えているんだ……?
「本当に……それだけですか? ソドム王……」
「というと……?」
「おいしい話すぎるということです。礼をするといっても、帝国まるごとひとつよこすなんて、聞いたこともないですよ」
「つまり、私がなにかたくらんでいるとお思いで?」
「まあ、そういうことです」
そうじゃなければ、おかしな話だ。
アルトヴェールをヨルガストンに吸収したいというのなら、話はわかる。アルトヴェールはまだまだ小国だ。
だが、歴史ある超大国であるヨルガストンが、アルトヴェールに併合されるなど、誰も考えないような話だ。
これには、なにか裏があるに違いないと考えた。
ソドム王は、神妙な顔つきで話を切り出した。
「実は……この帝国はすでに危険な状態にあるのです……」
「なんだって……!?」
「国境を隣接する、ユーラゴビス帝国から、今にも宣戦布告をされそうな状況なのです」
「そ、それがどういう……」
ユーラゴビスといえば、ヨルガストンともわたりあえるほどの大国だ。
数多くの騎士を擁する、軍事力に秀でた国。
だがヨルガストンほどの国力があれば、戦争くらいおさめられるはずだ。
「我が国の兵士は、かなりの数をテンペストテッタの街防衛戦で殺されました。そしてそのダメージは、軍事品や物資にも及びます」
「なるほど……今の国力が弱った状態では、厳しいというわけですね」
「そういうことです」
「ですが、それなら我が国に支援を要請するなど、やり方はほかにもあるのでは?」
俺としても、要請されれば断るような理由はない。
国がピンチだからといって、なにも国ごと売り渡すようなことをしなくても、民を守る方法はほかにもあるはずだ。
「そんな……! 助けていただいた上に、そんな都合のいい条件でさらなるお願いをするなんてできません」
「いや俺はかまわないんですけどね……」
「それに、もちろんそれだけではないんです。我々ヨルガストンはみな、ロイン様のもとでさらなる発展を願っています」
「そういうことですか……。でしたら、わかりました」
「本当ですか……!?」
「ええ、この話、受けますよ」
俺は決意を固めた。
ソドム王のいうとおり、俺はどのみち全人類を守るつもりだ。
それならば、人間同士で争うよりも、力を合わせたほうがいいだろう。
動かせる人間や物資が多くなれば、それだけやりやすくもなる。
それに、ユーラゴビスの話もあるしな。
俺としては、人間同士で無駄な血を流しあうことは避けたい考えだ。
今は魔界との戦いに備えて、力を合わせないといけない時代だ。
それだというのに、ユーラゴビスはヨルガストンの隙を狙って、戦争をしかけようとしている。
だがアルトヴェールがヨルガストンを吸収すれば、ユーラゴビスもうかつに手出しはできなくなるだろう。
少なくとも、それによって戦争を遅らせることはできるはずだ。
アルトヴェールから軍を派遣すれば、威圧にもなる。
そしていずれはユーラゴビスにも、魔界と戦う協力を仰ぎたい。
今は魔界からの侵略も小規模だが、いずれ軍単位で攻め込んでくることもありえるのだ。
そのとき、俺たち人類は力をあわせなければならない。
「みんな、ここにアルトヴェール帝国王、ロイン様が誕生した!!!!」
ソドムがそういうと、みんな一斉に立ち上がり、万歳した。
「ロイン王万歳!!!!」
俺はこの人たちも、守ると決めたのだ。
これから、さらに気をひきしめていかなくてはならない。
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