第121話 面会


 俺がヨルガストン王が待つという部屋の扉を開けると――。


「ロイン様……!!!! 皆の者、ロイン王に頭を下げよ……!!!!」


 ヨルガストン王と思しき人物が、いきなりそう言った。

 そして彼自身も、王座から立ち上がり、俺の前にひざまずいて首を垂れた。

 それに続くようにして、部屋中に配備された部下たちも、平伏した。


「こ、これは……!?」


 あまりにも大げさな出迎えに、俺は面食らってしまった。

 てっきり、俺を呼びつけるような人だから、もっと王らしく毅然とした態度をとってくるのかと思っていたが……。

 彼は王であるにもかかわらず、深々と頭を下げて、地面に額をこすりつけている。


「ロイン様! この度はわざわざお越しいただきありがとうございます!!!!」

「は、はぁ……」


「そして我が国の民を救っていただき、ありがとうございます!!!!」

「あ、あのぉ……頭をお上げください」


 俺はたまらずそう言った。

 いくら礼を言ってもらうといっても、相手は一国の王なのだ。

 そんな王に、ここまでしてもらっては俺としても申し訳ない。

 あくまで俺は当たり前のことをしただけなのだから。


「ロイン様……! 寛大なお言葉、感謝します!」

「は、はぁ……」


 いちいち大げさだなぁと思いながらも、俺は我慢した。

 相手は厚意からそういう態度をとっているから、それを無下にしては気の毒だ。

 顔を上げたヨルガストン王は、その態度からは考えられないほどの威厳のある王だった。

 俺よりも二回りほど年上で、ひげを蓄えた男らしい王様。


「申し遅れました……! 私、ヨルガストンの王、ソドム・ヨルドラモンと申します」

「どうも、俺はロインです」


 お互いに握手をして自己紹介をする。

 そして急にソドム王は、部下に怒鳴りつけた。


「おいお前たち! ロイン様が立ったままじゃないか! はやく椅子を用意しろ!」

「は、はい……!」


 すると俺のもとへ、玉座と同じかそれ以上に豪華な椅子が運ばれてきた。

 さすがに王の前で、こんな椅子に座るのはどうなんだろうか。


「あの、俺は大丈夫ですから……」

「そうはいきません。ロインさまを立たせたとあっては、国民にもうしわけがたちません」

「え……?」

「ヨルガストンの帝国民はみな、ロイン様に感謝し、たたえております。ロインさまはわが国のヒーローなのですよ? ヨルガストンの王として、全力でおもてなしいたします」

「そ、そうですか……。それはどうも」


 俺はしぶしぶ、用意された椅子に腰かけた。

 ソドム王も玉座に座るのかと思いきや、彼は俺のもとにまたひざまずいた。


「え……。ソドム王、あなたも座ってください」

「いえ、なりません。私はあなた様の前で、玉座に座るなど……そんなことはできません」

「そ、そうですか……。そちらがそうおっしゃるのなら……」

「ええ。どうかロイン様はお気になさらず」


 どうにも調子が狂うな。

 俺はただ街を一つ救っただけなのだが……。


「あの、少し大げさすぎやしませんか?」

「いえ、決してそんなことはありません。ロインさまがテンペストテッタの街を救ってくださらなければ、我が国は滅びていたでしょう」


 まあ確かに、ヨルガストンの軍隊ではどうしようもなかっただろう。

 だが俺はアルトヴェールを守るために、近くに降りかかった火の粉を払ったまでのこと。


「ロイン様。それから、以前お送りいただいたレアアイテムについても、深くお礼を申し上げます」

「あ、ああ……あれね」


 そういえば、ヨルガストン帝国へは以前、余ったレアドロップアイテムを送ったんだっけ。

 といっても、送ったレアドロップアイテムは全部下級のものだ。

 上位アイテム以外の不用品を送り付けただけなんだけどな。


「あのレアドロップアイテムのおかげで、我が国は今回の件からもすぐに復興できました。それだけではありません、軍事でも食料の面でも、我が国はさらなる発展をできました」

「それはよかったです」

「それで……ロイン王。我々はあなたにお礼をしたいのですが……」


 ソドム王は口ごもった。

 あれ……?

 お礼なら、さっきもう言われたはずなんだけどな。

 俺は別に、お礼の品をもらえるだなんて期待はしていない。

 そもそも、アイテムなら俺のほうがいくらでも持っているから、今更彼らからもらってうれしいものなんてないだろう。

 だから俺としては、さっきの大げさなお礼だけでもう十分なんだけど……。


「我々にはあなたさまにお渡しできるようなものは、思い浮かびません」

「ええ、だからいらないですよ? 俺はさっきの言葉だけで十分です」

「おお、なんと寛容な方だ……! さすがは偉大なるロイン王……!」


 またもソドム王は俺に感服した。

 俺としてはあたり前のことを言っているだけなんだけど。


「それで、我々は考えました……!」

「なにを……?」


 なんだか嫌な予感がする。


「我々ヨルガストンは、ロイン王に忠誠を誓います!」


 ソドム王は、俺の前に再びひれ伏した。

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