第114話 王の帰還【side:ゴウン】


「ふぅ……ふぅ……」


 深手を負った僕は、なんとか痛みに耐えながら人気のないところを目指す。

 体中の肉が焼けただれて、もはや痛みを通り越して快感すら感じていたところだ。

 そんな僕の前に、突如として光が現れた。


「なんだ……!?」


 どうやらその光は、転移スキルによるものだったらしく――。

 光の中からは、さっき別れたばかりのロイン一行が出てきた。

 どういうことだ……!?

 勇者ロイン――つい先ほど、僕と戦っていて、どこかに逃げたのではなかったのか?


 というか……僕はロインをめった刺しにしたはずだ。

 それこそ、ロインは殺したとすら思っていた。

 あれほどの傷、仮に生きていたとしても、こんなにすぐに治るはずがない。

 エリクサーのようなものがあったとしても、この傷の治りは異常だ。


「久しぶりだなぁ……」


 光の中から現れたロインは、僕にそう告げた。

 久しぶりだと……?

 ついさっき戦いをしていたばかりだというのに、おかしなことを言うやつだ。


 だが、この状況はまずいぞ……。

 僕の肉体は、まだまったく回復できていない。

 このままだと、痛みに耐えながらの戦いになってしまう。

 まあそれでも、僕のレベルは800だし、彼に後れをとることはまずないだろうけど。

 そう思っていたのだが――よく見ると、ロインたちの装備がさっきとは変わっていることに気が付いた。


「あれ……? なんだ……それ……」


「気づいたか? これはサイハテのセット装備。お前を倒すために、この装備を集めてきたんだ!」


「は……! 無駄なことを……!」


 僕はロインに対して、気が狂ったのではないかと思った。

 装備を集めてきただなんて、なぜ彼は最初からその装備をしていなかったんだ?

 まるで理屈が合っていない。

 そんなすごい装備があるのなら、最初から装備していればよかっただけのこと。

 つまり、やつの言っているサイハテ装備だとかっていうのは、はったりだ。

 そうでなきゃ、おかしな話だ。


 通常の手段で僕に勝てないからと言って、適当な防具をもってきて、はったりをかまそうというのだ。

 それだけやつらは、切羽詰まった状況にいるということ。

 まあ仮にどんな装備をもってきたとしても、僕に敵うことはありえないだろうけど。


「じゃあ、いくぞ……!」


「ああ……かかってこいよ……!」


 ロインの言葉に、僕は余裕の表情で返す。

 いくら僕が弱っていようが、負けるきなんて――。


「ぐぼぉ……!?」


 ――ズドーン!!!!


 一瞬のうちに、僕の頬に衝撃が加わる。

 そして僕は数メートル吹っ飛ばされる。


「な、なにが起こった……!?」


 僕が状況を把握する前に、次の攻撃が迫ってきていた。

 なんと起き上がろうとした僕の目の前に、すでにロインのこぶしが――。


「ぐはぁ……!?」


 ど、どういうことだ……。

 あれほど僕とロインにはステータスで圧倒的な差があったというのに……。

 ほんの数分で、これほどまでに力をつけてくることなんてあり得るのか?


「ふ、ふざけるなよ……! 僕が負けるわけないだろうが!!!!」


 怒った僕は、反撃にでようとする。

 だが、僕はなすすべなく、ロインに殴られ続ける。


「ぐあ!!!!」


「げぼ!!!!」


「ごぁ!!!!」


 まったくロインの動きについていけない。

 いったい数値にして、どれほどの敏捷ステータスなのだろうか。

 もはや僕では太刀打ちできないまでに、彼は成長していた。


「ど、どういうことなんだ……! レベル800の僕が……! レベルの概念すらない現地人に負けるなんて……ありえない!!!!」


「うるせえ!!!!」


「ぐほぁ…………!!!!」


 そのあとも、僕はなんどもロインに殴られ続けた。

 まったくどういうことかわからない。

 僕はいったい、どこで間違ってしまったんだ……!?

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