第108話 古龍快勝


「またボスラッシュかよ…………」


 開けても開けても現れるボス部屋に、俺は辟易し肩を落とす。

 しかし、意外なことに次のボスは――。


「ドラゴン……!?」


「グオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 そういえばドラゴンと戦うのは久しぶりになるけど……。

 どうもこのドラゴンは今まで俺が見てきたものとはかなり違うらしい。

 通常、今の世界に生きているドラゴンは、新龍種という種類の生物だ。

 しかし、太古の昔には、古龍種という種類のドラゴンのほうが主流だったそうだ。

 古龍種と新龍種には根本的な違いがある。

 まず見た目も違うし、なによりその強さがけた違いらしかった。


 古龍種からすれば、今いるドラゴンたちはトカゲみたいなものだ。

 なぜ古龍種が絶滅したのかは、いまだに明かされていない。

 しかし、どういうことかはわからないが、俺たちの目の前にいるのは、その古龍種だった。


「おいおい……このダンジョン、マジかよ……」


 さすがに古龍種なんかとは戦ったことがないし、俺も伝承の中でしか聞いたことがない。

 それこそ、小さいころに読んだ本の中でしか見たことがない。

 だが、目の前のこいつはまさにその本の中の古龍種だった。

 ドラゴンよりも分厚いうろこ、そしてはるかに膨大な魔力量。


「ロイン……私、少しこわい……」

「ああ……俺も震えている……。でも、大丈夫だ! 俺に任せろ……!」


 おびえるカナンをかばうように、俺は前に出る。

 さすがの俺もこれにはビビったが、だからといって負ける気はさらさらない。

 なぜなら、俺には竜殺しの騎士から受け継いだ破龍のつるぎがあるからだ。

 それに、不死鳥のくびかざりのおかげで、俺は一度だけなら死んでも大丈夫な身。

 古龍種だからといって、退く理由にはならない。


「それに、古龍種なんかのドロップアイテム、他の誰にも渡せねえ……!」


 俺はまっすぐに、竜に向かって突っ込んだ。


「ロイン……!」


「うおおおおおおおおお!!!!」

「グオオオオオオオオオオオオ……!!!!」


 古龍は俺に向けて、ブレスを吐いてくる。

 新龍種とはまったく質の違った、本物のドラゴンブレス。

 その密度も温度も、威力がまったくもって別物だった。

 これに比べれば、現存するドラゴンたちのブレスなんてさわやかなそよ風のようなものだ。


「うお…………!」


 しかし、俺はそのブレスを一刀両断する!

 破龍の剣、なんでも斬れる剣は、文字通りドラゴンブレスをも斬り裂く!!!!


「すごいロイン……! ドラゴンブレスを斬った!」


「うおおおおおおおおお!!!!」


 ――ズシャアアア……!!!!


「グオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 俺はそのまま、ドラゴンブレスごと古龍をぶった斬る。

 ドラゴンブレスを斬り裂き、それを剣にまとわせたまま、勢いで一刀両断!

 大きな巨竜が、瞬く間に地面に倒れこむ。

 通常の武器であれば、傷ひとつさえつけれないような固いうろこ――しかしこの武器であれば、この通り果実のように簡単に斬れる。


「はぁ……はぁ……古龍といっても、この剣の前ではあっけないものだったな……」


 ドラゴンブレスのせいで、さすがに息が切れてしまうも、俺はなんとか無傷で生還する。

 さすがは古龍のドラゴンブレスだ――直撃しなかったのに、俺の体力を大幅に削られてしまった。


「ようし……ドロップアイテムは……っと」



《古龍の竜玉》

★ ???

ドロップ率 ???

説明 加工し、武器や防具の素材として使える貴重なアイテム。



「竜玉……ということは、また会心率とかが上がったりするのかな……」


 とりあえずこれは、かえってガントレット兄弟に見せる必要があるな。

 指輪にでも加工してもらえばいいだろうか。


「ふぅ……今回の戦いでかなり体力を消耗した……」


 俺はその場に、座り込む。


「大丈夫? ロイン……」

「ああ……さすがに疲れたよ」


 クラリスが俺に回復魔法を使ってくれる。

 そしてしばし、俺の頭をなでてくれた。

 俺はクラリスの胸に抱かれながら、しばらく心を落ち着ける。

 ダンジョンの中で、すり減ったからだと心が、回復していくのを感じる。


「もうかなりダンジョンにいる。そろそろ一旦帰ろうか……」

「そうね」「そうだな……」


 俺たちは全員同意の上、いったん町へ帰還することにした。

 ダンジョンの中はアイテムの効果で、時間経過が止まっているとはいえ、さすがに潜りっぱなしは精神にも体にも悪い。

 時間経過を止めるアイテムのせいか、不思議と俺たちもおなかがすいたりはしなかった。

 だけれど、久しぶりにゆっくりもしたいからな。


「よし、転移……!」


 俺たちはアルトヴェールへと転移する。

 そしてしばらくの間、つかの間の休息をとることにする。

 しかし、この時俺たちはまだ知らなかった。

 俺たちの元へ、あんな危険が迫ってきているだなんて――。

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