第106話 ボスバトル


 ダンジョンをさらに進むと、ボス部屋らしきところへ出た。

 いかにもボスがいるというような、大きな扉を開けて、中へ入る。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴ!!!!


「な、なんだ……!?」


 俺たちの前に現れたのは、またも鎧の騎士だった。

 しかし今度はさっきまでのモブのような鎧ではない。

 身長は俺たちとさほど変わらず、その変わり特徴的な剣を持っている。

 あの剣の形からして……。


「ドラゴンスレイヤー……!?」

「そうみたいね……」


 そう、その鎧も剣も、俺たちもよく知っている見た目だった。

 伝説の騎士――ドラゴンスレイヤーそのものの見た目だ。

 竜殺しの騎士は、この大陸ではよく知られたおとぎ話だった。

 しかしそれはあくまでおとぎ話で、実際に存在した人物ではないはずだった。


「それが……どうしてここに……!?」


 最強の竜殺し、それが今、俺たちの目の前にいる。


「あ、あれは……モンスターなのか……!?」


 だがどうやら、騎士は生身の人間ではないようだった。

 さっきの鎧の巨人のように、中身が入っていないような不気味な雰囲気があった。


「なにかに操られているのか……!?」


 もしかしたら、アンデットのたぐいが乗り移っているのかもしれない。

 しかしなぜ、伝承や絵画の中の人物が、こんなサイハテのダンジョンに……?


「も、もしかして……!?」


 カナンがそういって、俺の顔を見た。

 どうやらカナンも俺と同じことを考えているみたいだ。


「ああ……もしかしたら、そういうことかもな……」

「え? ど、どういうこと……?」

「その昔、竜殺しは伝説の竜を殺し、世界を救ったあと、どこかに消えたといわれている。そこまでは、みんなが知っていることだ」

「ま、まさか……!」

「そう、そのまさかだ。あれは竜殺しのなれの果てかもしれない……!」


 まさかとは思うが、あれは本当にドラゴンスレイヤーだという可能性もある。

 おとぎ話のあと、彼はこのサイハテのダンジョンを訪れて、それで運悪く敗れ、アンデットモンスターと化したのかもしれない。


「だとしたら……」

「かなりの強敵ね……!」


 そんな伝説上の騎士が、敗れた可能性があるなんて、いったいこのダンジョンはどこまで底が知れないのだろうか。

 もしかしたら、さっきの鎧の巨人たちも、もともとは冒険者だったという可能性もある。

 数々の冒険者が途中でクリアできずに、死んでいった伝説のダンジョン――。


「だったら――俺はその屍を、超えていくまでだ……!」


「さすがロインね! そうこなくっちゃ!」

「いくぞ、クラリス! カナン!」


 俺たちだって、さっきのドロップアイテムで、さらに強化してきたのだ。

 こんなところで負けるわけがない!


「うおおおおおおおおおお!!!! 闇の右手ダークネス――!!!!」


 まず俺は闇の右手ダークネスを繰り出す!

 相手の出方がわからないため、闇の右手ダークネスで先制攻撃だ!

 俺自身が間合いを詰めるより、このほうが安全だ。

 しかし、俺の召喚した闇の右手ダークネスは、一瞬で竜殺しの剣に斬られてしまう。


 ――ズバ!


「なに……!?」


 今まで闇の右手ダークネスをこんな風に簡単に処理されたことはなかったが……。

 ということは、相手の攻撃力はかなりのものということになる。

 鎧の巨人すらも握りつぶした、俺の最強スキルの一角が、こうも簡単に打ち破られるなんて……!


「ロイン、次は私が……!」


 そんな俺とスイッチするように、クラリスがサイドからすかさず攻撃を仕掛ける。

 相手の攻撃力が高い以上、うかつには近づけないし、隙を見せるわけにもいかない!


盾火砲シールドビーム――!!!!」


 クラリスの得意技、盾火砲シールドビームが騎士に向かって放たれる。

 動きが鈍いのかはわからないが、避ける様子はなさそうだ。

 しかし――。


 ――ズシャア!!!!


「なんだと……!?」


 なんと竜殺しの騎士は、クラリスのビームをよけることなく、剣で光線を斬り裂いたのだ。

 さっきから魔法やスキルといった物理的ではないものを、あいつは剣で斬り裂いているのだ。


「ど、どういうこと……!?」


 これはうかつに近づくと、クラリスの盾や俺たちの鎧ですら斬られてしまう可能性があるな……。

 次はカナンが前にでて、氷の舞を放つ。

 さっきも鎧の巨人を倒すときに、大活躍したスキルだ。

 これなら周りの温度を下げ、冷たい風を発生させて攻撃するスキルなので、剣ではどうすることもできないはず……!

 しかし……!


「氷の舞――!!!!」

「コォオオオオ!!!!」


 ――ズシャアアア!!!!


 またもや、スキルの効果範囲を、そのまま斬った。

 まるで空間そのものを斬り裂くように、現象そのものを斬ったのだ。


「ど、どうなってるんだ……!?」


 動揺する俺たち。

 しかし、竜殺しの騎士はなにごともないように、その場に突っ立っている。

 兜の口の部分からは、コォオオオオと冷気のようなものが漏れている。

 ということは……中に誰か入っている……?

 アンデットの類かと思っていたが、さっきの鎧の巨人とは違って、中身は空洞ではないということか……?

 だが、人間とうこともないはずだ。

 なにせ竜殺しの伝説ははるか遠い昔のこと。

 ということは、中身を倒せばなんとかなるんじゃないのか……?


 俺たちの攻撃を一通り受け、実力を察したのか、急に騎士が動きだした。

 さっきまでの鈍い動きとは打って変わって、一気に距離を詰めてくる。


「は、速い……!」


 騎士は一直線に、俺のもとへとやってきて、その伝説の剣を俺に振りかざした。


「っく……!」


 俺はそれを、スライムソード改で受け止める。

 しかし、相手は現象さえをも斬り裂く剣だ。

 普通の上位装備では、さすがに受けきることはできない。

 俺のスライムソード改に、亀裂がはしる。


「ここまでか……!?」

「ロイン……!」


 押される俺を見て、クラリスが俺に駆け寄る。

 くそ、このままじゃ、クラリスもカナンもやられてしまう。

 仲間を守れずに死ぬ、それだけは勘弁だ。


 そのとき、俺はあることを思いつく。

 まだ試したことはないが……勝つにはこれしかない!


「うおおおおおおおおおおお!!!! 空間転移の剣ディメンションソード!!!!」


 俺はいつものように、空間転移の剣ディメンションソードを放った。

 剣を違う場所に転移させる、特殊スキルだ。

 このスキルには何度も助けられてきた。

 しかし、今回俺が空間転移の剣ディメンションソードでワープさせたのは、俺の剣ではない。


「…………!?」


 一瞬、騎士が驚いたように見えた。

 そう、俺がワープさせたのは、竜殺しの剣。

 敵の剣を、空間転移の剣ディメンションソードでワープさせたのだ。

 今までには試したことがなかったが、それは敵がモンスターというのもあって、剣を持っているような人型が少なかったのも理由だ。


 この空間転移の剣ディメンションソードというスキルの効果範囲がどこまでかはわからないが、ようは俺の近くにある剣を、別の場所へ転移させるスキルだ。

 そしてこのスキルの効果には、剣の所持者が誰かなんて関係ない。

 そんなものを判定する基準が、もしないのだとしたら……。

 たとえそれが相手の剣であろうとも、俺と密着さえしていれば、効果対象にとれるということだ……!


 ――ズシャアアア!!!!


 俺が空間転移の剣ディメンションソードで竜殺しの剣をワープさせたのは、もちろん、やつの鎧の中だ。

 騎士の鎧に、竜殺しの剣が突き刺さる。

 なんでも斬れる最強の剣、それであれば、当然やつ自身の鎧も斬れる。

 剣が突き刺さった場所からは、青色の気味の悪い血が噴き出している。

 やはりアンデットの類だったようだな……。

 ゾンビ系のモンスターは、血が青かったり緑色だったりする。


「うおおおおおおおおお!!!! とどめだ!!!!」


 俺はそのまま、ひるんだところにスライムソード改を叩き込む。

 さっき剣を受けたせいで、ひびが入っていて、攻撃の途中で折れてしまうが、それでも問題はない。

 竜殺しの剣で瀕死になっていたようで、騎士はその場に倒れた。


「やったぁ! ロイン、伝説の敵を倒しちゃった!」

「ふぅ……危ないところだったな……」


 まさかここまでの強敵が現れるとは思ってもみなかったが……。

 とにかく、なんとかなってよかった。


 倒れた騎士から落ちたドロップアイテム、それはもちろん――。



破龍のつるぎドラゴンスレイヤーEXエクストリーム

★9999

ドロップ率 不明

説明 なんでも斬れる剣。現象、空間、斬れるものならなんでも斬ることが可能。

   攻撃力+13500

   竜特攻+5000



「竜殺しの英雄……これはもらっていくぜ……」


 俺はその場に一礼をして、剣を拾った。

 どういったいきさつがあったかは知らないが、モンスターになる前は彼も、俺たちと同じくこのダンジョンの挑戦者の一人だったのだ。

 俺はその意思と剣を受け継ぎ、かならずこのダンジョンから生還する……!


「新しい武器も手に入ったことだし、これからどんどん進もう!」


 これで上位の武器も防具も一通りそろったことになる。

 そろそろ戦いが楽になってほしいところだが……そうもいきそうにないようだ。


 俺たちがボス部屋を抜け、次に進むと。


「おいおいマジかよ……」


 なんとそこにはまたボス部屋らしき扉が待ち受けていた。


「これ……ボスラッシュってこと……!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る