第105話 闇の勇者【side:ゴウン】
ロインたちがサイハテダンジョンへ潜ろうとしていた頃――。
◆
「ここが……異世界か……?」
目が覚めると、僕は見渡す限りの草原に寝転んでいた。
先ほどまでいた魔界とは打って変わって、すがすがしい風が吹いている。
僕は肺いっぱいに、空気を吸い込んだ。
「すぅ……はぁ……くっくっく。綺麗な世界じゃないか……ぶち壊しがいがある」
すると突然、大きな足音とともに、誰かの悲鳴が聴こえてきた。
――ドドドドドドドドド。
「ん……?」
僕がそちらを向くと。
「た、助けてくれえーーーー!!!!」
草原を走る、バッファローのようなモンスターの群れと、それに追われる商人の姿がそこにはあった。
商人たちはキャラバンを引き連れていたが、バッファローに追い立てられて、バラバラになってしまっている。
そしてモンスターたちは、僕のほうへ向かってきているではないか。
「お、おい……! そこのアンタ、逃げろおおおお!!!!」
「ふん…………」
まあなんともおあつらえ向きな状況だ。
異世界に来て、まず初めにどうするべきか悩んでいたが……。
イベントのほうから来てくれるとはありがたい。
やはり僕は魔界側の刺客とはいえ、転生者なのだな。
僕は自分の腰に差した、一本の邪悪な剣を見る。
魔界を立つときに、ガストロンが僕に渡したものだ。
魔剣ガストロン――彼の魔力が存分に込められた、魔界でも随一の名刀らしい。
僕はそれを抜くと、目の前のモンスターたちに斬りかかった。
剣をふるったことなどはないが、体が勝手に動く。
――ズババババババ!!!!
すると一瞬のうちに、バッファローたちは粉々の肉片になった。
それだけステータスが高いということだろうか。
まさに僕はチート転生者の力をもっていた。
「フハハハハハ!!!! これならだれにも負けることはない!!!!」
すると、バッファローを倒したことで、レベルアップしたらしく。
頭の中に直接、システムメッセージのようなものが流れ込む。
《レベルが1アップしました!》
「ほう…………」
しかし、僕のステータスでは、レベル100が上限だったはずだ。
それにステータスの数値もカンストしていた。
念のためだが、ステータス画面を開くことにする。
――――――――――――――
名前:ゴウン・ジョーク
本名:九条豪
25歳 男
攻撃力 10000(+8000)
防御力 10000
魔力 10000
知能 10000
敏捷 10000
魅力 10000
運 10000
ジョブ 転生者
Lv 101
◆天性スキル一覧◆
・初期ステータスカンスト
・初期レベルマックス
・限界突破無限成長
――――――――――――――
「これは…………!?」
9999だった僕のステータスが、上限を突破している。
普通ゲームとかであれば、カンストしたらそこまでのはずだ。
しかし、転生者となると話が別らしい。
スキルにある、限界突破無限成長というのが作用しているのだろう。
「ふふふ……これなら無限に強くなれるというわけか……。ガストロンたちが僕のような人間を異世界からわざわざ呼び出す理由が、これというわけか……」
僕がステータスを一人で見てニヤニヤしていると……。
先ほど追われていた商人たちが、キャラバンを片付け、こちらに近づいてきた。
そしてまごまごとした感じで、腰を低く落とし、手でゴマをすりながら、僕に話かける。
まあ、僕からすれば、彼らは殺すべき対象なのだけれど、ここは話を聞こう。
「あの……旅の冒険者さま。どなたかは存じませんが、助けていただきありがとうございます」
そういえば、日本語がそのまま通じるなぁ。
まあガストロンとも会話できていたしなぁ。
なんて思いながら。
「別に僕は助けたわけではないよ」
事実だ。
僕はあくまで、目の前にいたモンスターが襲ってきたから攻撃したまで。
異世界に来たから、まずは戦ってみていろいろ検証したかったのだ。
僕の強さや、ステータスについて。
「ぜひともこのお礼がしたく……」
「そうか、そういうことなら……」
僕は商人に案内してもらって、最寄りの街まで同行することになった。
その理由は、もちろん――単にお礼をしてもらうというだけではない。
「ねえ、スキルとかってどうやって得られるのかな?」
この世界のルール、情報を集めるためでもあった。
馬車に揺られながら、僕は商人に尋ねる。
商人というのは、いろいろな事情に精通しているものだ。
「スキル……ですか。それでしたら、スキルブックが必要ですね」
「ほう……それはどこで手に入るんだ?」
「まあレアドロップアイテムなので、かなり珍しいです。昔はかなり高額で取引もされていたんですけどねぇ。最近は結構、あちこちで流通量が増えてきてはいます。それでもまだ、高額なことに変わりはないですが……」
「それはどうしてまた……急に流通量が増えたんだ?」
「どこかの王様が、一斉にあちこちに配ったみたいなんですよねぇ。まあ世の中にはいろんな考えの人もいるもんで……。私などにはそんな貴重品を手放すような王様の考えはわかりませんわ……」
「ほう……王様ねぇ……」
これでほしい情報は聞けた。
万が一に備え、僕が強くなる方法は知っておく必要がある。
まあ、この世界の勇者なんかに負ける気はさらさらないんだけど。
僕の標的は、ロインとかいう勇者らしい。
まあそれ以外にも、人間ならいくらでも殺していいみたいだけど。
僕には考えがあった。
やみくもにロインとかいう男を探しても、見つからないだろう。
だいいち、面倒だ。
そんなことよりも、適当に暴れれば、その正義漢ぶった間抜けやろうは勝手に出てくるだろう。
「さあ、つきましたよ。ここがテンペストテッタの街です」
商人が馬車を止めて、町の名前を言う。
僕は馬車から降りるやいなや、商人の首に剣を突き立てた。
「ぼ、冒険者さん……な、なにを……!?」
「君はもう用済みだ。町まで案内ありがとう。まあ、そのせいでこの町の人はみんな死んじゃうんだけどね……」
「ま、まさか……!? や、やめてくれ……この街には妻も子供もいるんだ……!」
「あーあ……ダメじゃないか。そんなそそることを言っちゃあ。余計に興奮しちゃう」
――ズバ!!!!
――ブシャアアア!!!!
「うわああああああああああ!!!!」
僕は商人の首を、はねた。
そしてそのまま立て続けに、周りにいた目撃者も殺す。
逃走手段を減らすために、キャラバンの馬も殺す。
そして、おもむろに商人の荷台をあさる。
「お、あったあった。これだよこれ……」
僕が探し出したのは、さっき話に出ていたスキルブックだった。
彼の口ぶりからして、きっと積み荷の中にもあると思っていたのだ。
「これで物資も情報も手に入ったし……あとはおびき出すだけだな……」
僕はさっそく、町の中へと入っていった。
さあて、パーティーの始まりといこうじゃないか。
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