第100話 ダンジョンクロウル


 俺たち三人(俺、クラリス、カナン)のステータスはすでにカンストしてしまっている。

 そのため、俺たちのステータスをこれ以上上げるには、上位素材を使った上位装備が必要だった。


「こうなってくるともう、上位は装備品の質だけで変わってくるなぁ……」


 素のステータスに変わりがないのであれば、あとは装備だけで強さが決まることになる。

 まあ、それならそれで、より装備品が重要ということで、俺の腕もなるってもんだ。

 さっそく俺たちは装備品を集める旅に出る。

 そしてその前に、まずは情報集めだ。

 装備品を集めるにしても、やみくもに集めていてはどうしようもないからな。

 できるだけ、強いモンスターと戦いたいし、それに数も必要だ。

 いろんな種類のモンスターがいたほうが、効率よくいろんな種類のドロップアイテムを集められるだろう。


「というわけで……」


 俺たちはミレージュの街にやってきた。

 目的地は、いつぞやの情報屋だ。

 さすがの情報屋も、上位装備のことまでは知らないだろうが、それでもいい狩場についてはなにか知っているはずだ。


「いらっしゃい、おやアンタか……久しぶりだね。噂はかねがね聞いているよ。国王にまでなったんだって?」


 情報屋のおやじは、俺を見るなりそう言ってきた。

 さすがは情報屋、耳が早いというか、なんでも知っているようだ。


「なんでも知っているんだな……」


 少しばかり、気味が悪くもある。

 詮索されたり、情報を握られていたりというのは、あまり気分のいいものではない。


「なんでもは知らないさ。知ってることだけだ」

「そうか……、まあなんでもいい。いい狩場が知りたい。なにかいい感じのダンジョンなんかを知らないか?」


 情報屋のくだらないジョークは無視して、俺は本題に入った。

 とにかく、ダンジョンはでかければでかいほどいいし、敵は強ければ強いほどいい。


「そうだな。一つ……いいところがある」

「教えてくれ……」


 俺は情報屋のカウンターに、大金の入った袋を置いた。

 国王になってから、使える金の量も段違いだ。

 レアアイテムを金に換えれば、文字通りいくらでも払える。

 とりあえず情報屋が満足しそうな金額を渡した。

 しかし――。


「この倍だ……」

「はぁ……!?」

「いいから倍出せ。あるんだろう? とっておきの情報を教えてやる」

「…………わかったよ」


 俺は言われるがまま、さらに倍の金額を置いた。

 まあ、これのあと数十倍でも出せるくらい、俺のアイテムボックスには入っている。

 だから金額なんてのは些細な問題だ。

 ただ、相手にとっては別で、それだけ金額を払ったのだから、それだけ情報にも期待できるというわけだ。


「前人未踏の……ダンジョンがある」

「なに……? 前人未踏……?」

「まあ、正確に言うと、発見者や、その他にも何組かの冒険者は入ったことがある」

「妙な言い方だな……?」


「そのダンジョンに入ったはいいものの、みな5階層に到達すらできずに、引き返しているのさ」


「なんだって……!?」


 ダンジョンといえば、簡単なものでも10階層くらいはあってもおかしくないものだ。

 それだけの上級ダンジョンであれば、100階層はあっても不思議じゃない。

 それを……5階層までしか行けていないだと……?


「それは、どういった冒険者なんだ……?」

「もちろん、まともな冒険者だ。当時の最高峰の冒険者もいたよ。それでも、みんなあきらめてしまうのさ」


 それだけの強力なダンジョンが、存在していたとは知らなかった。


「なんでそんなダンジョンが有名じゃないんだ……」

「有名だったさ。発見された当時はな。だが、長年誰もろくに成果を残せないってんで、みんなもう興味をなくしちまったのさ。場所はいまでも記録されているが、もはや誰も覚えちゃいないだろうな」

「そのダンジョンは、危険じゃないのか……? 中から強力なモンスターが出てきたりは……?」

「さあな、今のところそういったことはないようだが……。きっとダンジョンの中だけで生態系が完結しているんだろうよ。そのくらい広いダンジョンでもあるからな」


 これは期待できそうな情報だな。

 俺も心なしか、胸躍る気分だ。


「それで、そのダンジョンの名前は……?」

「サイハテダンジョン……まだ誰もクリアしたことのない、手つかずのダンジョンさ」

「おお……! 燃えてきた……!」


 誰も見たことのないモンスターがいるかもしれない。

 そして、そんなモンスターが落とすようなアイテムはきっと、とてつもないレアアイテムなはずだ……!


「よし、そこへ転移だ……!」


 俺たちは、情報屋からきいた場所を地図で確認し、そこへ転移する。

 ダンジョンの場所は、地図の端っこのほうにあった。

 誰も近寄らないような、未開のジャングルの奥地にある。

 しかもそのジャングルは、とてつもない山岳に阻まれ、徒歩ではなかなかたどり着くことさえできないような場所だ。

 だがまあ、転移を使えば一瞬だ。


「ここか……」

「なんだか不気味な場所ね……」

「ああ……」

「私が先に行くわ……一応、盾もあるしね」

「わかった。頼む」


 ダンジョンへは、クラリスに先行してもらう。

 クラリスの盾は、ヘドロスライムの一件でなくしてしまっていたのだが、俺のスライムソードと同じく、スライムから出た粘石で、レドットに新しいものを作ってもらっていた。


「よし……! 行こう!」


 俺たちは三人で、サイハテダンジョンに足を踏み入れる。

 ここから長いダンジョン生活の始まりだ。

 俺たち三人分の全身装備をそろえるまで、帰ることはできないぜ!



《サイハテダンジョン――第一階層》


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