第101話 サイハテダンジョン一階層


 俺たちはダンジョンへ足を踏み入れた。

 ダンジョンの中は薄暗く、壁は岩石でごつごつしている。

 しばらく歩いていると、遺跡のような場所に出た。

 どうやらここからが本格的なダンジョンの始まりのようだ。


「うお……なんだアレ……!?」


 目の前に、モンスターが突然現れる。

 イタチのような姿をしたモンスターで、茶色の毛並みを逆立たせてこっちを威嚇している。

 目は赤く、暗闇で不気味に光っている。

 体は2メートルくらいあって、威圧感がすごい。

 それでいて、かなり速く動き回りそうだ……。


「よし……構えろ……!」


 俺たちは武器を構えて、戦闘の態勢をとった。

 しかし、次の瞬間――。

 信じられないようなことが起きる。


 ――シュン……!!!!


「うわ…………!?」


 目の前にいたイタチが、一瞬で動いたような気がした。

 俺は気が付くと、後ろへ吹っ飛ばされていた。


「ロイン……!?」


「キシャアア!!!!」


 イタチは雄たけびを上げて、俺たちを威嚇している。

 ここから先は縄張りだから、近づくなと言わんばかりに。


 いったいなにが起こったのか、俺には理解できなかった。

 目の前のイタチが、瞬間移動したように思えたのだ。

 気づいたときには俺は攻撃を受けた後だった。


「大丈夫……ロイン!?」

「ああ、大丈夫だ……! それより、こいつかなり危険だぞ……!」


 俺はなんとか受け身をとったので、軽い傷で済んだ。

 しかしこの俺にダメージを与えるほどの高火力であることは間違いない。

 ここは一切の油断を許さなれない。


「いくぞ……! 火炎龍剣ドラグファイア!!!!」


 俺はそうやって攻撃をするも、なんとまたイタチは一瞬で瞬間移動し、避けられる。


「っく……どうしたらいいんだ……」


 敵は攻撃も一瞬だし、よけるのも一瞬だ。

 こちらもスキルを使って高速で移動するも、追いつくことができない。


「どうなっているんだ……!?」

「ロイン、私に任せて……!」


 クラリスが挑発で引き付ける作戦だ。 

 いつもの敵であればこれでうまくいくはずなのだが……。


 ――バリン!!!!


「そんな……! ジャストガードで守ったはずなのに……!?」


 クラリスも一瞬で攻撃されてしまい、攻撃をもろに受ける。

 なんとか盾のおかげでけがはせずに済んだようだが……。

 このままだと一向に敵にダメージを与えられない。


「ロイン、私に任せろ!」

「カナン……! 大丈夫なのか……!?」


 次はカナンが前に出た。

 カナンはスキル瞬間動作ファストムーブを使って、俺たちよりもはるかに早く動くことができる。

 しかし、それにもかかわらず、イタチはさらに上をいく速さだ。

 というか、早いというよりも、瞬間移動に近い。

 瞬間移動なら、俺も転移で行えるが、どうもそれとも違うみたいだ。

 こっちが気が付く前に攻撃されている。

 そしてこっちがあてたはずの攻撃が、まったく当たらないとうのだから不気味だ。


「くそ……どうなってるんだ……!?」


 カナンも不思議そうに、イタチから距離をとる。

 どうもこのダンジョンの敵は一筋縄ではいかないみたいだ。

 今までの敵とは明らかに性質が違っている。


「はは…………!」


 そんな中、俺はなぜか自然と笑みを浮かべてしまっていた。


「なに笑ってるの……ロイン……!?」

「クラリス。ごめん、俺……今最高に興奮してるんだ……!」

「もう……」


 だって、こんな異次元の化け物みたいな敵からは、きっと摩訶不思議なレアアイテムがとれるに違いない……!

 この謎の現象を解明したいところだが……。

 きっと勝ちへの糸口も、そこに隠されているだろう。


「うおおおおおおおおおおお!!!!」


 カナンがもう一度、イタチに斬りかかる。


「キシャアア!」


 しかし、一瞬でイタチはカナンの後ろに回り込む。

 だがカナンも負けてはいなかった。

 カナンにも考えがあったのだ。

 彼女はここぞとばかりに、スキルを使った。


「リコール……!」


 以前スキルブック集めのときに覚えたスキルだ。

 リコール――自分の体を、一瞬前の時点の場所に戻す能力だ。


 ――ビュン!


 カナンも一瞬で、イタチの後ろに回り込む形になる。

 カナンは、これを待っていたのだ。

 イタチも今度はなにが起こったのかわかっていないようすだ。

 そこにカナンが一撃を叩き込む!


「麻痺刃――!!!!」


 ――ズシャ!


 ようやくイタチにダメージを負わすことができた。

 しかも麻痺状態を与えることにも成功した。


「やったぁ……!」

「さすがはカナンだ……!」


 イタチが麻痺になったことで、ようやくその能力の本質がわかり始める。

 なんとイタチは本当に瞬間移動を繰り返していた……!

 麻痺でおかしくなっているのか、やみくもに瞬間移動を繰り返す。

 ダンジョンのフロアのあちこちを、瞬間移動で動き回る。


「なんだ……!?」

「これじゃあ攻撃を当てられない……!」


 でもこれはチャンスだ。

 今までだったら簡単に攻撃をよけられていたが……。

 これならどさくさに紛れて、攻撃を当てられるかもしれない。


「よし……! 俺に任せとけ!」

「でも……どうやって……!? 相手は瞬間移動で……」


 俺には考えがあった。

 さっきまでのようによけられる状況だったら難しかったが、麻痺でろくにコントロールが効かないのであれば話は別だ。

 これはちょっと消耗が激しいから、できればやりたくなかったんだがな……。

 俺は剣を取り出すと――。


剣撃分身デュアルウェポン――!」


 スキルを発動させ、剣を分身させた。

 今まではこのスキルの使用に、回数制限があったが、こういうときのために訓練を繰り返していた。

 今では俺はこのスキルを、一日に百回ほどは撃てるようになっていた。


剣撃分身デュアルウェポン! 剣撃分身デュアルウェポン! 剣撃分身デュアルウェポン!」


 俺はどんどん自分の剣を分身させていく……!

 そして、もう一つのスキル空間転移の剣ディメンションソードと組み合わせる!

 空間転移の剣ディメンションソードは、任意の空間に俺の剣を瞬間移動させるスキルだ。


空間転移の剣ディメンションソード!!!!」


 50個ほどに分身させた剣を、一気にダンジョンのフロア内にばらまく。

 一本の剣なら、到底当たらないだろうが、これだけの剣の数ならば、どれかは動き回るあいつにあたるだろうという作戦だ。


 ――ズシャアアア!!!!


「ビンゴ……!」


 俺の作戦通り、空中にばらまいた剣の一本が、みごとイタチをとらえた。

 まあ当てずっぽうみたいな戦い方だったけど、勝てばよかろうなのだ。

 しかし、鍛えておいて本当によかった……。


「それにしても……手ごわい相手だったな……」

「そうね。最初から苦戦させらたわ……。でもその分、ドロップアイテムは期待ね」

「ああ、そうだ」


 俺はイタチの死体をまさぐって、アイテムを探る。

 そういえばこのイタチ、まだあまり知られていないモンスターだから、名前がよくわからないな。

 まあ便宜上、トキイタチとでも名付けておくか。

 時間を移動しているような生き物だった……。

 そしてドロップアイテムは。



《サイハテの砂時計》

レア度   ★2700

ドロップ率 上位限定

説明    このアイテムを使えば、ダンジョン内にいる間、外の時間を止めておくことができる。



 俺はその説明を見て、今までで一番の驚きを見せた。


「はぁ…………!?!??!?!」


 時を止める……って、マジか……?

 これなら、ダンジョンにいる間、外の時間経過を気にしなくていいってことか……?

 でも、そんな都合のいい話ってあるのか……?


「こ、これ……どういう仕組みなんだ……?」

「さ、さあ……わからないわよ……」

「まあいいじゃないか……!」


 カナンは能天気にスルーするけど、俺とクラリスは顔を見合わせて不気味さを共有する。

 だってこんなアイテム、神の御業としか思えない。

 魔法でも、魔法道具でも、ここまでの無茶なことはできない。

 いわばこれは、魔法でも説明がつかないような、神の道具だ。

 そんなものがモンスターから落ちるなんて……。


「これは上位のレアドロップはマジで規格外かもな……!」


 俺はさらなる興奮を覚える。

 このレベルのとんでもアイテムがほかにもどんどん出てくるのだとしたら……。

 俺たちは神にも近い力を手にすることになるのかもしれない。


「そういえば……時を止めるといえば、さっきのあのイタチも、まるでこちらの時をとめているような動きだったな……」


 カナンがふと、そんなことを言った。


「「はは……まさかな……」」


 俺とクラリスは顔を見合わせて、冷や汗をかいた。

 まさかそんなことができるようなモンスターが、自然界に存在するとは思えない。

 それこそ、神が意図的に作り出したようなモンスターでない限り。

 だが仮に、そんな意味不明の、超常現象的なモンスターがごろごろ出てくるようなダンジョンだとしたら……。

 この先にいったいどれほどの怪物が待っているのだろうか――。


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