第99話 魔人転生2

 目が覚めたときには、魔界だった。

 そこは、魔界と形容するほかにないくらい、絵に描いたような魔界。

 邪悪がそのまま具現化したような世界だった。

 そして、僕の目の前には鬼のような生物がいた。

 彼は自分をガストロンと名乗った。


「あなたが勇者様ですねぇ……!? お名前は……?」

「僕か……僕は……」


 そういえば、こういったファンタジーの世界で、日本の名前を名乗るのも変だな。

 僕もこうして異世界に来たのだから、なにか違う名前を考えるとするか。

 九条豪だから――。


「僕は――ゴウンだ。ゴウン・ジョーク」


「では勇者ゴウンよ……! 我々に力を貸してくださるかな?」


「うん……まあもちろん、やってやろうじゃないか!」


 僕は二つ返事でオーケーした。

 なにせ僕はたいくつしていたのだ。

 なにもかもを手に入れて、もうあの世界には飽き飽きしていた。

 異世界なら、それを一からやり直しだ。

 今までの金やコネは使えない。

 誰も僕のことを知らないし。

 こんなにわくわくすることってない。


「それで……見るからに君は悪魔か鬼といった見た目だけれど……、これはどういうことだ? 勇者召喚っていうわけじゃあないんだろう?」


 僕は目の前の鬼――ガストロンに尋ねた。

 どうにも、僕がよく知る漫画とかの展開とは大きく違っている。

 普通こういった召喚っていうのは、もっと聖女さまとか大賢者さまとかにされるものだ。

 悪魔が人間を召喚するだなんて、逆じゃないのかとも思ってしまう。


「ふっふっふ……そこに気づくとは、やはり話が早い」


「面倒な前置きはいい。さっさと要件だけを話せ。僕はまどろっこしいのは嫌いなんだ。それに敬語もけっこうだ」


 僕がそういうと、目の前の悪魔は表情を変えて、僕に話し出した。


「ここは見ての通りの魔界だ。そして、貴様は我々の救世主スケットとして召喚された。要件は、力を貸してほしいということだ」


「それで、何をすればいいんだ……? まさか魔王を倒せなんて言わないよなぁ……?」


 だって、目の前のこいつが魔王って感じの見た目だし……。

 こいつが魔王じゃないにしろ、それに近しいものであることは間違いない。


「倒してほしいのは勇者だ……。そして、人間世界を恐怖に陥れ、征服するための駒となれ……!」


「ふふふ……そうかそうか、なるほどな。それは面白そうだ……!」


 勇者とかいう存在は、むかつく存在だからな。

 ああいう正義ぶったやつらが、僕は一番嫌いなんだ。

 世の中っていうのは、そういう綺麗ごとが通用するような場所じゃない。

 僕は政界の裏側や、大企業の裏の世界をいやというほど見てきた人間だ。

 だから、人間なんてのは滅びればいいと常々思ってきた。

 高貴な僕以外の人類は、ゴミムシ同然、生きている価値なんて、あろうはずもない。


「じゃあ、皆殺しにすればいいんだな?」

「ああ、もちろんだ」


「はっはっは……! これはいいぞ! 楽しみだ……!」


 まさにこれこそが、僕の渇きを潤すイベントだ……!

 僕はずっと、このときのために生きてきたのかもしれない。

 人類を滅ぼすことができるなんて、なんて気持ちのいい。

 やはり大量虐殺。

 人を一人殺したくらいで、僕は満たされない。

 現代日本だと、あまりにも派手なことをすると、いろいろと面倒だ。

 しかし、この異世界で、しかも魔王軍の後ろ盾のもと、殺戮を行えるなんて……。

 そんな都合のいい話、いままでにあっただろうか……!?


「ただ……お前さっき僕を駒と言ったか……?」

「う……それは……」


 相手は僕の身長の三倍もあるような大鬼だ。

 しかし僕は、一切ひるもことなく、そいつを威嚇する。


「かしずくのはお前らのほうだ……! 僕が……魔王だ……!」

「は…………?」


 僕は目だけでそいつを威嚇した。

 僕のような高貴な人間は、それだけで相手を掌握するほどの存在だ。

 ガストロンは一瞬ひるんだような動きを見せた。


(この人間……!? 何者……!? しかし、やはり私の人選は間違っていなかった……! こいつならあるいは……!)


「よいだろう……魔王さまはほかにいるから魔王様になることはできないが、ゴウン、貴様を同格の同胞とみとめよう……。駒と言って悪かったな……」


「ふん…………」


 まあ、今はそれでもいいだろう。

 いずれ、すべてが終わったときに、魔界に君臨するのはこの僕だ。


「それで、僕の能力はなんだ……?」

「それはこちらが知りたいくらいだ、ステータスをみてみてくれ」

「わかった、ステータスオープン……!」


 僕はステータスを開いた。

 僕は通常の人間だが、こういうのにはお決まりのパターンがある。

 僕のような召喚されてやってきた人間は、この異世界では特別な力を持っているものだ。


「さあて、どんな特別な力なのかな……?」



――――――――――――――

名前:ゴウン・ジョーク

本名:九条豪

25歳 男

攻撃力 9999

防御力 9999

魔力  9999

知能  9999

敏捷  9999

魅力  9999

運   9999

ジョブ 転生者

Lv   100


◆天性スキル一覧◆

・初期ステータスカンスト

・初期レベルマックス

・限界突破無限成長

――――――――――――――



「ふーむ…………」


 僕のみたところによると、さして特別なところはなさそうだ。

 その点は、少しがっかりかな……。

 まあ、僕の生まれつきの才能を考えれば、このくらいのステータスは当たり前だ。

 僕は日ごろから一流のトレーナーに鍛えられているし。

 そして、転生者であることを踏まえれば、このスキルも普通と言える。

 もっと特別なスキルとかがあるのかと思ったが……。

 転生者としては普通くらいの能力値だろうか……?

 しかし、ガストロンの反応は違っていた。


「こ、こここここれはすごい……!!!!」


「そうか……?」


 いったいどこら辺がすごいのだろうか。

 僕はこの世界の普通がわからないので、いまいちピンとこない。


「まず、この世界のほかの人間には、ジョブやレベルといった概念はない……! 私も、聞いたことのない言葉だ……」


「え……? そうなのか……?」


「これは、転生者特有のものだろう……。よし、これならば……あのロインという男も倒せるかもしれない……!」


「はっはっは……! 余裕のようだな……!」


 まずはそのロインとかいうのが、どういうやつなのか、探ることから始めたいな。


「よし、これでもう大丈夫だ」


 僕はそのあとも、ガストロンから世界のことについてあれこれと教わった。

 まあ、大体が想像通りで、予想通りだ。

 それも僕のIQを考えれば当然だ。

 僕のIQは通常のテストでは図りきれないからな。


「さあ、魔界の勇者よ……! 憎き英雄ロインを倒すため、このゲートをくぐり、人間界に赴くのです!!!!」


 僕はガストロンによって、人間界への扉をくぐった。

 どうやら彼ら魔族は、この扉をくぐるのに苦労するようだ。

 そのため、僕が呼ばれたのだとか。

 人間であれば、いくら巨大な魔力をもっていても、かなり通りやすいようだった。

 ゲートが、人間に対しては警戒を緩めるのだろうか。


「ようし、楽しみだ……! この異世界を、破壊しつくす……!」


 僕の新たな人生が、始まった。

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