第96話 番外編:他国の王

※三人称視点



 ロイン率いるアルトヴェール領が独立したことによって、腹をたてる人物がいた。

 それはミルグラウス帝国と双璧をなす大国――ヨルガストン帝国の王、ソドム・ヨルドラモンであった。

 ヨルガストン帝国は、ちょうどアルトヴェールと国境を隣にしている。

 ソドムからすれば、今回のアルトヴェール独立は、敵対行為に他ならなかった。


「くそ……我が国を侵略する気なのだろうか……」


 アルトヴェールがその気になれば、かなりの損害をヨルガストンに与えることができる。

 ここ数年平和を保ってきたというのに、今回の知らせは、ソドムを不安に陥れた。


「アルトヴェール……危険な国だ。今のうちに対処をしなければ……」


 ソドムは怒りをあらわにして、部下に情報を集めさせた。

 しかし、その数日後に、状況は一変する。


 なんと、ヨルガストン帝国あてに、アルトヴェールから大量の品物が送られてきたのだ。


「陛下……! アルトヴェールより使者がもたらした品々でございます!」


 ヨルガストン帝国の宰相が、ソドム王にアイテムボックスを差し出す。

 そのアイテムボックスは、ロインよりヨルガストン帝国に送られたものだ。

 中にはもちろん、ロインが集めた大量のレアドロップアイテムが入っている。


「な、なんだと……これは、アイテムボックスではないか! いったいアルトヴェールの王はなぜ、こんな貴重なものを……」


 まだ国同士の付き合いも大してないのにも関わらず、このような高価な贈り物。

 ソドム王がそれを不審に思うのも無理はなかった。

 ありがたさよりも、不気味さが勝つ。

 これにはいったいどのような政治的意図があるのだろうか。

 宰相も、ソドムも図りかねていた。


「とりあえず……中身を見てみるか……」


 不審に思いながらも、ソドムはアイテムボックスの中身を確認させる。

 宰相も恐る恐る、中身を取り出していく。

 するとどうだろうか、出てくるものすべてがレアドロップアイテムではないか。

 しかも中にはまだヨルガストン帝国には存在していないようなものまである。


「な、なんだこれは……!?」


 ソドムは腰を抜かして驚いた。


「ど、どうしましょうか……殿下。なにかアルトヴェール王国に返礼の品を用意したほうがよいでしょうか」


「そ、そうだな……しかし……これに見合うようなものはわが国にはないぞ……」


 不気味に思いながらも、ほっと一安心するソドムであった。

 まさかわざわざ贈り物をした相手を侵略するようなことはあるまい、と。

 しかし、それと同時に恐怖も覚えるソドム王であった。

 これほどの品を軽々しく渡せるほどの国力が、アルトヴェールにはある、と。


「いったいどういう国なのだ……恐るべし……アルトヴェール……!」





 時を同じくして、アルトヴェールからかなり離れた場所。

 大陸の真反対に位置する大国――ラクラントス帝国。

 そのラクラントス帝国といえば、あのギルドラモンを擁する国である。

 ラクラントス帝国も同じように、アルトヴェールの独立のニュースをききつけた。

 ラクラントス帝国の皇帝――ラポンシェフト33世は、このニュースに興味津々であった。


「ほっほっほ。またになるべくして小国が独立しおったわい。アホめ」


 小国は、運よく独立できたとしても、数年のうちに他国に取り込まれてしまうことが常である。

 なぜなら、大国と比べて、圧倒的に物量で劣るからだ。

 そして物量はそのまま、軍事力に直結する。

 後ろ盾のない小国が、この世界で生き残ることは困難を極めた。


「次の世界会議で、あれこれいちゃもんをつけて資源をぶんどってやるわい……!」


 ラポンシェフト33世は、そうやって小国の王をいびるのをなによりもの楽しみとしていた。

 半年に一度行われる世界会議において、彼は他国を何度も陥れてきた。


「ちょうど大陸の東側にも進出したいと思っておったところだ。これを機にアルトヴェールとやらを滅ぼし、侵略の足掛かりにするとしよう……」


 しかし、そんな悪だくみをしているラポンシェフト33世のもとにも、アルトヴェールから贈り物が届く。

 ロインの集めた、数々のレアドロップアイテムだ。


「んな……!? なんじゃこれは……!?」


 ラポンシェフトは、腰を抜かして泡を吹いた。


 自分が侵略しようかと思っていたところは、とんだ大国だったのだ。

 小国だと侮っていたら、こんな大量の贈り物。

 もしあのまま知らずに攻め込んでいれば、どうなっていたか……。

 そんな恐怖が、ラポンシェフトを襲う。

 なにせこれだけのレアドロップアイテムがあれば、簡単にラクラントス帝国を滅ぼせる。

 それを送り付けられて、ラポンシェフトは戦慄した。


「アルトヴェール……いったいどういう国なのだ……」


 それに答えるようにして、宰相が言った。


「実は調べによると……アルトヴェール王国の王、ロイン・キャンベラスは我が国にも多大な利益をもたらした人物だとか……」


「なに……!?」


「我が国の観光で有名な都市、ギルドラモンが発展したのは、すべて彼のおかげであるとか」


「そうだったのか……ロイン王……恐ろしい人物だ……。これだけの軍事力を誇り、さらに我が国の街にも干渉していたとは……恐れ入った……。我々が敵う相手ではなさそうだ……」


 そうして、ロインの贈り物作戦は見事に成功した。

 今回の贈り物によって、アルトヴェール国を敵視する国はなくなった。

 それどころか、その軍事力や物量的豊かさを知らしめることとなり、世界会議でも一目置かれる存在となった。

 しかも、ロインはあのミルグラウス帝国のケイン王と非常に親しくしている。

 その姿を見て、周りの王たちはみな、ロインに恐れと尊敬を抱くことになるのだった。



【あとがき】

こちら新連載を開始しました。


《永久持続バフ》と【なんでもレベル付与】でレベルのない世界に『成長革命』!才能のない付与術師の僕が、実はみんなを成長させていた!?追放されたとたん、勇者パーティの能力が下がって破滅したけどもう遅い!

https://kakuyomu.jp/works/16817139556127656286


確定レアドロップ超えを目指して本気で書いた作品なのでぜひフォローお願いします!

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