第五章 来訪者 編

第97話 魔界

※三人称視点



 魔界から、ロインたちの活躍を見ている人物がいた。

 魔王――デスマダークである。

 魔王は青紫色の肌をした、巨人であった。

 見た目は普通の人間とさして変わらないが、筋肉量は人間のそれを逸している。

 そして額には魔力を蓄える魔石のようなものが埋め込まれていて、頭には角が生えている。

 魔王デスマダークは、水晶を見ながらつぶやく。


「この人間……恐ろしく強い……このままでは我らの計画が破綻してしまうではないか……!」


 先日も、ヘドロスライム投下作戦が失敗に終わったところである。

 かなりの手間と準備をして、挑んだ作戦であったが、見事にロインによって打ち砕かれてしまった。

 魔王デスマダークは部下たちに怒りをぶつけていた。


「魔王様……お言葉ではありますが、次なる作戦を考えております」


「ほう……聞かせてみろ」


 魔王にそう提案したのは、魔王軍四天王の一人にして、魔王の右腕――魔界将軍ガストロンである。

 彼の見た目を一言で説明するのであれば、赤鬼。

 巨大な筋肉を持ち、体中にはこぶともいぼともつかぬ突起があふれている。

 それらはすべて力の象徴とばかりに、赤く輝いている。

 オーガ種のモンスターであった。

 しかし力だけでなく、このガストロンという男は作戦にも長け、それゆえ魔王からは重宝されていた。


「あのロインという男は強すぎます。そのスキルもさることながら、やはりあの何者も恐れない精神性。それから、機転。なにもかも、けた違いに優れています」


「おい、敵をほめるのはもういい。はやく本題に入れ」


「っは……! そのような規格外の存在。こちらも規格外の存在を送らねば、勝ち目はございません」


 もちろん、魔王や四天王クラスであれば、どうにかすることもできるのかもしれない。

 しかし、魔界と現世をつなぐゲートは、ごくわずかな魔力しか通れない。

 少なくとも、四天王クラスがあちらの世界に侵略しにいくのには、まだまだ時間がかかるのである。

 そのためにはまず、ほかのモンスターなどで侵略をし、ゲートを広げるための術式などを設置しなければならなかった。

 そのための先行部隊が、以前ロインが倒したデロルメリアであったのだが……。

 魔法陣に長けたデロルメリアが、ロインによって倒されたことによって、魔界側の計画は大幅に遅れていた。


「しかし、どうやって……?」


 魔王は疑問に思う。

 これ以上、強力なモンスターを送ることはできない。

 べへモスの召喚にも、かなりの時間がかかったし、ゲートの力をかなり消費した。

 しかし、それでもロインにはかなわなかった。

 次に行ったヘドロスライムの作戦も、結局は失敗に終わった。

 これ以上、限られた魔力でロインに対抗するのは、不可能かと思われていた。

 しかし、ガストロンは考える。


「規格外には規格外を……!」


「だから、その規格外とやらをどうやって……!?」


「それは……異世界からですよ……!」


「なに!? 異世界だと!?」


「そうです。こちらの世界にそういった強力な存在がいないのであれば、異世界から呼んでくればよいのです」


 ガストロンには、すでにその準備があった。

 古文書に書かれた方法に従えば、異世界から人間を連れてこれる。

 人間であれば、ゲートを通じて現世に送り出すことも容易である。


「だが……異世界人といっても人間なのであろう? だったら、本来であれば我々魔族の敵ではないか! そんなやつが、おとなしく力を貸すとは思えんがな……」


 魔王デスマダークは、そう懸念する。


「大丈夫です。そこもしっかりと考えてあります。確かに、魔王様のおっしゃる通り、善性の人間であればそうでしょう。しかし、悪性の人間であれば……? どうでしょうか」


「ほう……それは……面白そうだな」


「でしょう……? あとはすべて、このガストロンにお任せください」


「ふっふっふ……期待しておるぞ」


 こうして、ガストロンは作戦に取り掛かった。

 規格外の勇者、ロインを倒すため。

 異世界から、こちらも勇者を召喚するのである。

 まあ、勇者といっても、勇者を倒すための勇者だが。


「いわば、勇者キラー。魔界側の勇者といったところか」


 召喚の方法は、転生である。

 ガストロンは異世界から、人間を転生させ、魔界に呼び出すつもりなのだ。


「ふっふ……伝承によれば、転生者は特別な力をもって現れるという。それこそ……確定レアドロップに匹敵する、規格外の力を……!」


 そして、大きく地面に描かれた魔法陣にむかって、ガストロンは唱える。


「いでよ……! わが魔界を救う、救世主よ……! 異世界転生召喚魔法――デルドラゴン!!!!」


 ――ズドーン!!!!


 魔王城に、巨大な紫色の落雷。


 それと同時に、魔法陣に一人の男が現れる。

 見るからに目つきの悪い、邪悪な男。


「これは期待できる……!」


 ガストロンは、その男にいろいろと吹き込んだ。

 魔界を救う存在にしたてるため、あれこれ嘘を交えて。

 曰く、勇者ロインは最悪の存在であり、消し去らねばならいということ。

 そして魔界こそが真の世界の支配者であり、善性であるということ。

 数日して、魔界に勇者が誕生する。

 ロインを倒すため、最強の刺客が今、ここに誕生した。


「さあ、魔界の勇者よ……! 憎き英雄ロインを倒すため、このゲートをくぐり、人間界に赴くのです!!!!」


 ガストロンによって、ロインを狙う刺客は、放たれた。



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【あとがき】


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