第94話 国

※最初だけ三人称視点



 アルトヴェール領が存在する国、ミルグラウス帝国。

 大陸の約半分を占める、超巨大な国だ。

 ミレージュの街も、そこに位置する。

 王都ミルグレモンを除けば、ミレージュが最大都市だった。


 だが、ロインの活躍もあって、アルトヴェールもかなりの大きな街となってきていた。

 ロインにそのアルトヴェールを授けた張本人、王――ケイン・ヴォルグラウスは考える。


「ふむ……アルトヴェール領……少々大きくなりすぎたな……。これは、私の思っていた以上のことだ」

「っは……! 陛下……どうなされますか……!」

「そうだな……ロインをもう一度城に呼んでくれ。私から話をする」

「かしこまりました!」


 ケインはアルトヴェール領に、使いを出した。

 そして、ロインは再び、城へと招かれることになったのだった。





【ロイン視点】



「うーん、ケイン王からまた呼び出されるなんて……俺、またなにかやっちゃったのか?」


 俺は内心、不安になってしまう。

 今回のモンスター大量討伐があったからだろうか。

 かなり目立ってしまったようだ。

 王っていうのは、権力にうるさいからな……。

 いつでも反乱を恐れているというし……。

 もしかして俺、領地を取り上げられたりするのかな……?

 それとも、なにかの罪を着せられたり?


「きっと大丈夫ですよ。ロインさんは、頑張っていましたから! なにかまた、ご褒美をもらえるんではないでしょうか……?」


 とサリナさんが俺の不安を察して、そう言った。


「うーん、そうだといいけど……」


 上位アイテムを集めに行きたいところだったが、王からの呼び出しとなれば、すぐに答えないわけにはいかない。

 俺はさっそく、王城へ転移した。





「おお、ロイン……久しぶりだな……よく来てくれた」


 ケイン王は、俺を快く迎えてくれた。

 あれ……俺の警戒のし過ぎだったかな?

 とりあえず、握手をする。


「久しぶり、ケイン。それで……今回は何のようだ……?」


 俺はケインに友人として接する。

 前に領地をもらったときに、そうしてくれと言われていたからだ。

 それなのに……。

 ケインの横にいた従者が、俺を見て怒り出した。


「キサマ……! 勇者だかなんだか知らんが、王に向かってなんだその態度は……!」

「は…………?」


 どうやらこの部下は、空気が読めないらしいな……。

 俺とケインの関係を察することもできないらしい。

 というか、王の従者ならそのくらい知っていてもらいたいところだが……。

 どうやらケインも俺と同じ思いのようで。

 ケインは従者に対して、大目玉を喰らわせた。


「キサマ……! わきまえるのはキサマのほうだ……! ロインは私の友人であり、客だぞ!」

「し、しかし……」


「ええい! いいわけをするな……! お前はクビだ……! おい、誰かこの教育の行き届いていない不届き者を、城から追い出せ!」

「そ、そんな……!」


 へまをした従者は、ほかの兵士たちに連行されていった。


「すまない、ロイン。不快な思いをさせてしまったな。いや、臣下の教育がなっていなくて恥ずかしい限りだ。申し訳ない」


 ケインは王であるにもかかわらず、俺に誠意を込めて頭を下げた。

 しかし、俺とて、そのくらいで怒るような人間ではない。


「いやいや、頭をあげてくれ。俺なら平気だから、あの従者にはあとでもう一度チャンスをやってくれ」

「そうか……? ロインは優しいんだな……。さすがは勇者だ。私よりよっぽど王の器にふさわしい」


 ケインは過剰に俺を持ち上げた。

 これは……なにかあるな、とさすがの俺も察する。


「それで……今日はなんの用なんだ……?」


 さっそく、本題を切り出す。

 ケインはゆっくりと口を開いた。


「ロイン、君に任せたアルトヴェール領は、かなり発展していると聞いている」

「ああ、おかげ様で……」


「そこでだ……君のアルトヴェール領を、国として独立させてみないか……?」

「え…………? いいのか……?」


「ああ、もちろんだよ。そのほうが魔王軍に対抗するにも有利に働くだろう。自分の国のほうが、なにかと動かしやすいだろう……?」

「ああ……助かるよ」


 ケインはなんと太っ腹な王なんだ。

 俺に領地を与えただけでなく、国としての独立にも手を貸してくれるという。


「もちろん、支援は変わらずにさせてもらうよ。それに、独立してお互いに国の王となったほうが、いろいろ楽しいだろう? なに、わが国にもメリットのある話だ。協力して、国を大きくしていこうじゃないか……!」

「ああ、もちろんだ……!」


 俺たちは固く握手を交わした。

 てなわけで、俺は急遽としてアルトヴェール王国の王となったわけだが……。

 俺のやることは変わらない。

 俺は魔王軍と戦って、最強のアイテムを集めるだけだ。


 それに、他の国もみんな、魔王軍に怯えているからな。

 今はまだ、人間同士で戦争なんかしていられる時代ではない。

 だから、俺は国として独立しても、他の国と連携して、助け合っていくつもりだ。

 まあ、それは向こうから攻めてこなければの話だが……。


 ケイン王と、大国ミルグラウス帝国が後ろだてとなっているから、まあ、アルトヴェールを攻めてくるような馬鹿な国はそうそうないだろうが……。

 念のためだ、国力は大きいに越したことはない。

 俺はそのためにも、一段と責任感を強めて、さらにアイテム集めに邁進しようと思った。

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