第84話 夜襲


 その晩、事件は突然起きた。

 大きな警報の音とともに、たたき起こされる。

 俺はてっきり、この前のベへモス戦のときのように、巨大なモンスターでもあらわれたのかと思った。

 しかし、そうではないらしい。

 この警報の大きさからして、物事はかなり緊迫した状況にある。

 俺はあらかじめ、危険度を警報の大きさで、ある程度わかるように決めておいた。

 警戒レベルSSS――最大危険度だ。


「まさか……魔王……!?」


 だが、そんなことがあるだろうか。

 いきなり魔王級の敵が現れるなんて。

 今までは、魔界からの敵は、数も脅威も限られていた。

 それは、魔界からのゲートを通れる魔力量が決まっているからだ。

 通れる魔力量は、日に日に増えていくが、それでも一回通れば、また補充する期間が必要になる。

 まあ、それは今までの事象を踏まえたうえで建てた仮説にすぎないが。

 とにかく、ベへモス出現からしばらくなにもないことを考えても、それは正しいだろう。


 ではなぜ、今回急にこのような大騒動が起こっているのだろうか。

 これにはなにか、秘密があるはずだ。

 まだ魔界のゲートが開いて、次の強敵が現れるまでには時間があるはずなんだ。


「おい、みんな起きろ……!」

「うん……なに? ロイン……」

「むにゃあ……」


 俺はクラリスとカナンを叩き起こす。

 こいつらには戦ってもらわないといけないからな。

 サリナさんとドロシーも起こして、避難させる。

 ドロシーにはサリナさんを護ってもらうように言ってある。

 一応ドロシーも戦闘能力がないわけではないからな。

 そして俺たち戦闘員三人は、城の廊下へ出て、状況を確認する。


「あ、ロインさん……! 大変です!」

「なにがあった……!」


 途中で出会った兵士に話を聞く。

 みんな血相を抱えて、逃げるなり戦いの準備を進めている。

 これはまわりの反応からしても、ただごとではない。


「それが……見てください……!」

「ん……?」


 俺は彼に連れられて、城の窓から身を乗り出す。

 すると、昼間サンセットポークを倒した草原が見えた。

 そして、そこには大量の――おびただしい数のモンスターたち。

 まだかなり距離はあるが……。

 無数のモンスターたちが、サンセットポークが現れたのと同じ方角からやってきているではないか……!


「あ…………が…………な、なんだこれ…………」


 あまりにもの軍勢に、俺はことばを失う。

 まるで、魔物の海だ。

 海――海が俺の城に向けて、迫ってきている。


 なるほど、昼間サンセットポークたちが森の方からはるばる草原を抜けて、このアルトヴェール領に訪れたのは、そういうことだったのか。

 モンスターたちに追われ、逃げてきた……というわけか。

 だが、だとしても……あの大量のモンスターたちはどこから……?


「くそ……! これはマズイな……。とりあえず、非戦闘員の避難を優先してくれ。転移石を使えば、なんとかなるはずだ」

「はい、ロインさん。それでしたら……すでに冒険者ギルドのギルド長が率先して進めています」

「そうか……ありがたい……!」


 アルトヴェール領のみんなは、領主の俺が言うのもなんだが、本当に優秀だ。

 俺が駆け付けるまえに、もうそこまでしてくれているのか……。

 冒険者ギルドのギルド長か、あまり直接親しいわけではないが、また今度、礼を言いにいかないとな。


「それから、戦える奴らは草原へ向かってくれ……!」

「それも、すでにみんな向かっています! 起きたものから順に、自ら率先して」

「さすがだ……!」


 本当に優秀な仲間たちだな……。

 だが、これこそ俺が今までやって来たことの積み重ね。

 その甲斐があったというものだ。

 貸出装備と、それから冒険者ギルドの設立。

 それによって、今このアルトヴェール領には、かなりの数の戦闘員が滞在している。

 しかも、みんなガントレット兄弟がつくったルナティッククリスタル製の装備を使いこなせるレベルにまで達している。

 まさに備えあれば患いなし。

 俺の作戦通りだ。


「よし、俺たちも草原へいくぞ……!」

「はい……!」

「そうね」

「よおし、私が全部倒してやる!」


 話を教えてくれた兵士と、クラリス、カナンを連れて、俺は草原へ転移した。


 草原には、冒険者と兵士たちが、一直線にずらっと並んでいた。

 アルトヴェールの街を護るようにして、壁のようになって。

 まるで人間の壁だ。

 そして草原の向こうには、モンスターの海。

 モンスターの海と、人間の壁の戦いだ。


「これだけ冒険者がいるんだ……! 大丈夫、俺たちは勝てる! みんな、力をかしてくれ!」


 俺はみんなの前に立ち、そう鼓舞する。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 冒険者の壁が、雄たけびの合唱をする。

 それが波となって伝わり、俺たちの士気がぐっと高まる。

 俺たちはアルトヴェール領で、拳を交え、談笑を楽しみ、酒を交わしあった、仲間なんだ。


「俺たちの街を護るぞ!」


「ロインさんへの恩を返すんだ!」

「この町に新居を買ってしまったんだ! まけるわけにはいかねえよ!」

「俺はアルトヴェール領が大好きなんだ! ロインさんがいるからな!」

「はっは、温泉もただだし、肉もただ。こんな町はほかにはねえよ!」

「そうだそうだ! 俺の妻もこの町に移り住んでんだ。絶対に負けるかよ!」

「大丈夫、俺たちにはほかならぬロインさんがついているんだ!」

「ロインさんが与えてくれたこの武器で、絶対に勝ってみせる!」


 俺の一言に、みんながそれぞれにそんな反応を返す。

 本当に、頼もしいの一言に尽きる。


「うおおおおおおお!!!! 突撃ぃいいいいい!!!!」


 戦いの火ぶたは、切って落とされた。

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