第83話 温泉と豚肉

※温泉回ですb




 アルトヴェール領に帰還した俺たちはさっそく――。


 ――温泉を作った。


「やったああああああ!!!! アルトヴェール領に温泉ができたわよ!」


 クラリスが温泉にじゃぼーんと飛び込む。

 そう、ギルドラモンから持ち帰った、ベへモスハートを使って、俺たちの城の裏手に温泉を作ったのだ。

 一般客用のものと、俺たち専用の貸し切り風呂。

 俺たちはさっそく、今その貸し切り温泉を堪能しているところだった。

 ギルドラモンでは他の客もいるし、好き放題というわけにはいかなかったが……。

 ここは俺のアルトヴェール領、そして城の裏手だ。

 だから声も出し放題だし、好きに使える。

 ということで、俺たちは全員で混浴だ。

 サリナさん、カナン、クラリス、ドロシー、俺。

 みんなで入ると、開放感がすさまじい!


「はぁ……こうしてロインさんと温泉に浸かっていると、夫婦になった感じがします……」

「まあ、俺……普段は冒険に出てばっかりですからね……」

「そうですよ。たまにはこうしてゆっくり休まないと……」


 と、俺とサリナさんはゆっくりと大人の時間を過ごしたかったのだが――。


「こらぁ! 待てぇ!」


 と、クラリスは温泉の中をバシャバシャとはしゃぎまわっている。

 そして、それに追いかけられているのはカナンだ。


「はははー! 待つものかぁ! 逃げろ逃げろ!」


 カナンは温泉の中を、バシャバシャと歩き回る。

 まったく、ふぜいというものが皆無だ、こいつら。

 そしてドロシーは、


「くらえー! ウォーターボール!」


 念動力で水を飛ばして、カナンやクラリスにちょっかいをかけている。

 なんだこのお子様たちは……。


「はぁ……お前たちちょっとは景色を楽しんだりだなぁ……」


 ここは露天風呂になっていた。

 城の裏手は少し小高い丘になっているので、見晴らしもいい。


「まあまあ、いいじゃないですか、賑やかで。子供たちみたいです」

「いやぁ……あいつらも嫁のつもりなんですけどねぇ……」


 俺とサリナさんだけは、疲れがとれた。

 他のバカ三人は、風呂上りに体力を消耗したようで、ぐったりと寝転んでいた。


「よし、じゃあ俺はルナティッククリスタルのようすを見てくるよ」

「はい、いってらっしゃい、ロインさん」


 俺は工房に向かった。

 帰ってすぐ、温泉を作る前に、ルナティッククリスタル+++を、工房に預けておいたのだ。

 そろそろ、どうにかなっているころだろう。


「おーい、ガントレット兄弟」

「おお、ロインか。このルナティッククリスタル+++はすごいぞ! 本当に!」

「お、マジか……」


 なんでも、通常のルナティッククリスタルよりもさらに少ない魔力で、さらに固くできるそうだ。

 これなら、俺の魔力を使わなくても大丈夫らしい。

 よかった……また体力を搾り取られての禁欲生活はごめんだ……。


「じゃあ、これでかなり大丈夫そうなんだな?」

「ああ、もう当面の間は、ルナティッククリスタルには困らないだろう」


 よし、貸出装備はこれで完璧だ。

 あとは冒険者たちの技量も、それに伴って上がっていけばいい。

 そうすれば、俺の最強ギルドの完成だ!


「うわあああああああ!!!! 敵襲敵襲!!!!」

「…………!?」


 突然、外からそんな声が聞こえてきた。

 俺はいつ何時、魔王軍が現れてもいいように、そういった備えもしてあった。

 敵が現れれば、すぐに領内のどこにいても、わかるようになっている。

 しかし、なにも前兆などなかったように感じるのだが……。

 俺はとりあえず、声のした方へ転移してみる。


「何があったんだ……!?」

「あ、ロインさん! それが……あれを見てください!」


 見張り兵の一人が指さしたのは、アルトヴェール領に広がる草原。

 その向こうから、なにやらドタドタと、四足歩行の魔物がやってくるではないか。


 ――ドドドドドドドドド。


「あ、あれは……!? サンセットポーク……!?」


 サンセットポーク……豚の魔物だ。

 家畜として飼われている豚とは違って、非常に巨大で狂暴。

 その名前は、その毛並みの色からそう名付けられたらしい。


「まったく……旨そうな名前だ」


 俺は思わず、お腹をならす。


「しかし……あちらの方向には森などなかったはずですが……いったいあの豚どもはどこから……?」

「まあ、それはどうでもいい。とりあえず倒すしかないだろう。このままだと、街に入ってきてしまう」


 アルトヴェール領の街、アルトヴェール。

 そこには既に、多くの人々が暮らしている。

 それを護るのも、領主である俺の役目だ。


 俺は転移で草原へ。

 そして――。


極小黒球グラビトン――!!!!」


 魔法をとなえた。

 極小黒球グラビトン――それをとなえると、目の前に真っ黒な球体が出現する。

 そして――。


 ――ズキュウウウウウン!!!!

 ――ズリュリュリュリュリュリュ!!!!


 サンセットポークたちは、その黒球に吸い込まれるようにして、集められる。

 この魔法は、周りのモンスターや物体を、その地点に吸収し、集める魔法だ。

 こうすることで、敵を一網打尽にするのだ。


火炎龍剣ドラグファイア――!!!!」


 俺はそれをいっぺんに、剣で丸焼きにする!!!!


 ――ズシャアアア!!!!


 これで焼き豚の完成だ。


「ふぅ……」


 なんということはない。

 俺にとっては大した魔物ではない。

 だが――。


「あ…………?」


 豚たちの死骸から、大量のドロップアイテムが噴射した。

 これって、止めることできないのか……!?

 俺が敵を倒すと、どうしてもアイテムが出過ぎてしまう。

 これは要対策だな……。

 アルトヴェール領の草原が、豚のドロップアイテムでいっぱいになる。

 俺はそれを、必死にアイテムボックスで集めていく。


「えーっと……」



《サンセットポークの肉+++》

レア度 ★44

ドロップ率 ???

説明 サンセットポークの高級部位を集めた肉塊。



「おお…………!! これは今日はみんなで宴会だなぁ……」


 まさか、大量の高級肉が手に入るとは……。

 レアドロさまさまだなぁ。

 こんな使い道もあったなんて。


 その晩は、みんなで焼肉パーティーで楽しんだ。

 もちろん、アルトヴェール領のみんなでだ。

 肉はいくらでもあるんだし、大盤振る舞いだ。


「さすがはロインさん! 気が利くねぇ!」

「くうぅ! 無料でこんないい肉が食べられるなんて、領主さまは最高だ!」

「引っ越してきてよかったぜ!」


 アルトヴェール領の僻地に住む農民の人たちにも、ちゃんと分け与える。

 うーん、久しぶりに領主らしいことができた気がするぞ!


 でも……なぜ草原にブタがあんなにいたんだろうか……?

 俺の中で、その疑問だけがいつまでもしつこく、豚の油のように残っていた。


「うおおおおお! 肉をよこせ! 肉ぅ!!!!」


 カナンが俺の皿に、手を伸ばす。


「うわ! 馬鹿! お前! 自分の分があるだろ! いくらでもあるんだから!」


 そのせいで、俺の服に油が飛び散る。


「あーあ……もう! ロインさん、洗濯しますので、脱いでください」

「って……サリナさん、ここで脱がさないで……あーーー!!!!」


 と、まあそんな感じで大騒ぎをしたわけだ。

 みんな酔っぱらい、もうわけがわからない。

 俺はいつのまにか、豚の疑問なんて忘れてしまっていた。

 俺の知らないところで、とんでもないことが起きているとも知らずに……。

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