第82話 ギルドラモン凱旋2


「で、これがどうすごいんだ……?」


 ただこれだけでギルドラモンがここまで活性化したというのは不思議だ。

 まだあれから、それほど時間は経っていないはずなのに……。


「それがですね、このベへモスハート。いろんなものにつかえるんです!」

「ほう……」


「例えばですね、温泉ですよ、温泉!」

「温泉……!?」


 そう言えば、さっきから街のあちこちで、煙が立っている気がする。

 なるほど、街に活気があるように感じられるのは、観光客のせいか。


「このベへモスハート、魔力で適切な温度に調整するだけで、温泉が簡単に作れてしまうんです! しかも、これで作った温泉には、滋養強壮効果や、攻撃力の一時アップ効果なんかもあって、冒険者にも人気なんですよ……!」

「へぇ……そんな使い道があるのか……」


 今までの素材は、武器や防具に使うことしか考えてこなかったけど……。

 素材の持つ性質を活かして、商売を始めるなんて、さすがはギルドラモンの人たちはユニークだな。

 それは間違いなく、俺だけの功績ではなく、彼ら自身の工夫による復興だと言える。


「それに、温泉だけではないんですよ!」

「え……? まだあるのか」


「熱を放出する性質を利用して、いろんなものにエネルギーとして使えることも、期待されてるんです」

「へえ……なんだか難しそうでよくわからないけど、そりゃあよかった」


「なんでも、街の研究者たちが今こぞって研究してるんですよ。蒸気……だとかなんだとかってんで……」

「なるほどな……まだまだ可能性のある素材だってことだ」


 ベへモスがこの街に与えた恩恵は、かなりのもののようだ。

 損害ばかりだと、俺も申し訳なかったところだが、これならまあ、俺としても気が楽だ。


「それから、やっぱり装備の素材としても、稀に使用されていますね。それはまあ、勿体ないので、かなり高価で取引されていますが……」

「まあ、温泉にしたほうが儲かるだろうしな……」


「ですです。あ、そうだ……ロインさんもいくつか持って帰ってくださいよ。温泉、作ってみてはどうです……?」

「ああ、そうだな……。なら、もらっていこう。でも、いいのか……? そんな貴重なものを」


「なにを言ってるんですか! もとはと言えばロインさんのドロップアイテムじゃないですか!」

「ああ、ありがとう」


 もっと、もとはと言えば、俺がベへモスを呼び寄せたわけなんだけどな……。

 でも、くれるというならもらっておこう。

 その後も、彼らから手厚い歓迎を受けた。

 もちろん、温泉にも入らせてもらった。

 俺は、クラリスとカナンと、貸し切りで混浴を楽しんだ。


「それで、ロインさん。市長がお会いしたいと……」

「ああ、わかった」


 温泉から上がった俺たちは、市長に呼ばれ、街の中心部へ。


「いやぁ……ロインさんには感謝してもしきれませんなぁ。このギルドラモンの街に、莫大な富をもたらしてくれた……!」

「そんな、大げさな……」


「それでですね、それを称え、我々……こんなものを用意しました」

「え…………?」


 そして市長が合図すると……。

 街の中心部の広場に置かれた、作りかけの銅像。

 その幕がおろされ、銅像がその姿を現した。


「じゃーん! ロイン像です!」

「ロイン像……!?」


 まさか、これはなんの冗談だ……?

 ギルドラモンの街の中心部の広場に、俺を形どった巨大な銅像ができている……だと!?


「どうですロインさん。よくできているでしょう?」

「ああ……そうだけど……これはちょっと……」


 俺としては、なんて反応したらいいかわからない……。

 うれしい……というか恥ずかしさのほうが勝ってしまう。

 だが、カナンは無邪気に、


「うわぁ! すごいよロイン! 私の故郷の町に、ロインの像があるなんて……! なんだか誇らしい気分だ……!」

「えぇ……そ、そうかぁ……?」


 まあ、喜んでいるようでよかったが……。


「ロイン、ミレージュだけでなく、ギルドラモンでも英雄になっちゃったわね……」


 とクラリスだけは俺と同じく、呆れたような困ったような表情でため息をついた。

 とまあ、こんな感じでギルドラモンでの滞在は、妙なことばかりだった。


「じゃあ、ルナティッククリスタルを獲って、さっさと帰ろうか」

「そうね……」「うん!」


 その後俺たちはルナティッククリスタルを、予定通りに集めた。

 宙クジラ3頭分をアイテムボックスに詰め、帰還する。



《ルナティッククリスタル+++》

レア度 ★77

ドロ率 ???

説明  通常のクリスタルよりさらに魔力伝導率が高く、硬度も高い上位素材。

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