第79話 ルナティッククリスタル


 後日、ガントレット兄弟から呼び出され、行ってみると……。


「おいロイン、このルナティッククリスタルだがな……」

「ああ……」


 兄弟はルナティッククリスタル手に持って、俺にものすごい剣幕で迫って来た。

 まるで、世紀の大発見をしたかのように、大げさな雰囲気だ。


「これはとんでもない性質の素材だぞ!」

「そんなにか……!?」


「俺から説明しよう……」と、話者はドレッドからレドットに変わる。

 こうして、白シャツで素面でいると、兄弟どちらもあまり見分けがつかないが。

 それに、最近は同じ工房に籠っているから、余計に似てきている。

 まあ、それは置いておいて。


「このルナティッククリスタルは、魔力に対して、特殊な反応を見せる」

「へぇ」


 そういって、レドットはクリスタルに魔力を込めた。

 ていうか、こいつら魔力も扱えたんだな……すごい、さすがはガントレットの血筋だ。


「ほら」


 すると、クリスタルは透明だったのから、真っ赤に変わり……。

 水晶ではなく堅い岩のような性質へと変化した。


「これは……!? どういうことだ……!?」

「ああ、どうやらこのルナティッククリスタルは、魔力を込めると、それに応じて硬度を増す性質を持っているらしい」


「なるほど……それが、どうすごいんだ?」

「これは、魔力を込めれば込めるほど、硬度を増す」


「ていうことは……」

「そう、魔力さえ足りれば、最強クラスの防具が出来るというわけだ」


「おお……!!!!」


 これは驚いた。

 まさかルナティッククリスタルにそんな秘密があったなんて。


「しかも、魔力を込める前の、クリスタルの状態なら、加工もしやすい。これは、今までにないほどの最高の素材だぞ!」

「じゃあ、量産も可能なのか……?」


「まあな、それには魔力が足りない。俺たちだけだと、クリスタルの全部を変化させるほどの魔力にはならないんだ」

「なるほどな……」


 まあ、大量の防具に必要な分、魔力を入れていくとなれば、骨の折れる作業だろう。

 魔力は寝ないと回復しないし、時間もかかりそうだ。


「ということでだ、ロイン。あんたも手伝ってくれるよな?」

「あ、ああ……まあ……そうだな。出来るだけやってみよう」


 ということで、俺も時間のあるときに、工房へ来て出来上がったクリスタル製の防具に、魔力を入れていくことになった。

 俺も昼間は襲撃に備えて、魔力を残しておかなければならない。

 だから、寝る前に工房へ通うことになる。


「はぁ……けっこう体力を奪われる……」


 魔力をすっからかんにされて、俺はくたびれて寝室に帰る。

 もともと魔力ゼロだったわけだけど、あるものを抜かれるのと、もとからないのとではまた話がちがう。


「ねえ、ロイン。最近ご無沙汰じゃない……?」


 と、クラリスが俺に絡みついてくる。


「ダメだ……俺はもう疲れてるんだ……寝かせてくれ……」


 俺はそう言いながら、ふらふらとベッドへ向かう。

 しかし、後ろからぞろぞろとみんなが付いてくる。


「ロイン! 私も寂しいぞ……!」

「そうだよ! ロイン成分が不足してるんだけど……!」


 と、ドロシーとカナンも後ろから覆いかぶさるように、俺にまとわりついてくる。

 困ったな……。


「もう、みなさん。ロインさんは疲れてるんですから、わがままはいけませんよ。今日はみなさん、それぞれの部屋に帰ってください」


 と、サリナさんがみんなを制した。


「っちぇ……しょうがないにゃあ……」


 と、みんなぞろぞろと部屋を出ていく。


「ありがとうございます、サリナさん。助かりましたよ」


 サリナさんはみんなのリーダー的存在、というわけでもないんだけれど……。

 なんだか、サリナさんの言葉にはみんな納得させられてしまうらしかった。

 正直、サリナさん以外の奴らは中身が子供だから、助かる。


「ロインさん、私が、疲れを癒してあげますよ……?」


 と、サリナさんが俺に近づいてきた。

 まさか、これを狙って……!?


「え、ちょっ……待って! 俺、今日はムリだから! ほんとに!」

「大丈夫、わかってますよ。マッサージをするだけです。私にぜんぶ、任せてください。ロインさんは、そこに寝ているだけでいいんですよ?」


「え、ちょっと……ひゃあああああああああああああああああ!!!!」


 俺は、サリナさんから秘密のマッサージを受けた。

 サリナさんに、たくさん癒されて、疲れもだいぶましになった!

 そのおかげで、俺はぐっすり眠ることができた。

 ただ、朝起きたときにサリナさんがとんでもないことをしていたのには、ちょっとばかり驚いたけれど……。

 それでも、こうやって俺を支えてくれるのは、本当にありがたかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る