第80話 貸出装備
しばらくして、ようやく予定数の装備が用意できた。
ルナティッククリスタル製の鎧に、各種武器。
そろそろクリスタルが尽きかけてるから、また奈落にいってとってこなくちゃな。
まあ、それはそれとして……。
今ある鎧のほとんどは、魔力を既に通して、固くしてある。
これで、当面の間営業できそうだ。
「よし、じゃあ冒険者ギルドを、いよいよ動かしていこう」
そして、アルトヴェール領に、初めての冒険者ギルドが誕生した。
受付嬢も何人か雇ってある。
その受付嬢たちの教育係は、もちろんサリナさんだ。
そして、ギルド内には、酒場が併設されている。
内装は、ギルドラモンのギルドを参考にした。
酒場のカウンターには、ベラドンナが働いている。
「おお……理想の形だ……」
俺はその風景を見て、満足して笑みを浮かべる。
まだ冒険者の数は少ないが、これからだ。
レドットとドレッドの兄弟も、しょっちゅう酒場に休憩に来ている。
まあ、しばらくは仕事も落ち着くから、別にいいけどな……。
「ロイン、あんたのおかげだよ。俺たちは仲直りできたし、ベラドンナともうまくいっている」
「まあ、それはこっちこそだ。あんたらのおかげで、こんなに早く装備が整えられた」
俺たちは、お互いに感謝の言葉を述べた。
だが、まだまだこれからが踏ん張りどころだ。
といっても、俺にできることは、レアドロップの補充くらいなのだが……。
◇
貸出装備は、俺の予想以上に、盛況を博した。
「うおおお! ロインさん、本当にこれ、借りていっていいんですか……!?」
「ああ、もちろんだ。その代わり、報酬は少し減るがな」
俺は新米冒険者に、武器の使い方などを教える。
あとは、強敵と戦う注意点も。
武器や防具を手に入れたからと言って、使い手次第で、その明暗は大きく分かれる。
いい防具をつけていても、打ち所が悪ければ死に至るし。
攻撃の仕方が下手なら、一発も当てられずに、苦戦することになる。
まあ、その辺、俺は徐々に強敵と戦って鍛えられたから、これまで無事にやってこれたのだろう。
それに、個人によって素質というものもある。
俺は、なりふり構っていられなかったし、死ぬ気で戦ってきた。
だから、今がある。
でも、いきなり強い武器を手にした冒険者が、どうなるかはわからない。
だから俺は、その辺を念押しして伝える。
「大丈夫ですよ、ロインさん! この武器なら、ぼくでもきっと……倒せます!」
「ああ、そうだな。だが、くれぐれも油断するなよ……!」
「はい……!」
俺はこうして、毎日何人もの冒険者を送り出した。
そろそろレアドロップを掘りに行きたいが、立ち上げは最初が肝心だからな。
しばらくは、こうしてちゃんと、俺がこの目で見届けたい。
ちょうど、冒険から帰ってきた奴らがいた。
「ロインさーん……! ただいま戻りました……!」
「おお、お前たちか……。無事でなによりだ」
冒険者の無事こそが、俺の一番重要視していることだ。
武器や防具はまた作れるが、命だけはそうはいかないからな。
「ロインさん、この貸出制度、すごいですよ!」
「ほんとか!」
「ええ、この装備、本当にいいです! 僕たちでも、今まで倒せなかったような敵を倒せました……!」
「それはよかった。でも、報酬に不満はないか?」
「そんな! 不満なんてありませんよ! だって、今までだったら挑戦すらできなかったようなクエストですからね。僕らには、多すぎるくらいの額ですよ!」
「そうか、そりゃあよかった」
というふうに、冒険者たちはよくやってくれているようだ。
こうやって、強い敵と戦い、強いクエストをこなしてもらう。
そうすることで、このアルトヴェール領を拠点にする冒険者たちは、どんどん場数を踏んで、どんどん強くなる。
そして、最強の冒険者軍団が誕生するのだ。
そうすれば、魔王軍など怖くもない……!
しかも、俺の冒険者ギルドの収入も、はやくも他のギルドに肉薄するほどだ。
なにせ、高難易度のクエストばかり受けることができるからな。
強敵と戦うことを望んでいる冒険者は、どんどんアルトヴェール領に移ってきている。
まあ、中にはそんなキツイクエストはごめんだというものもいるから、そこは棲み分けできそうだ。
しかも、冒険者たちは、多すぎるクエスト報酬を、どんどん酒場に落としてくれる。
だから、俺のギルドは金銭的にもかなり儲かっていた。
中には、儲けた金で、貸出装備を買い取る奴もいた。
「よしよし、俺の思った通りに進んでいるな……!」
そんなとき、ガントレット兄弟から、追加でルナティッククリスタルを仕入れてほしいと言われた。
「ロイン……悪いが、また頼めるか?」
「ああ、お安い御用だ」
また奈落に潜って、クジラを倒せばいいだけのことだ。
今度は、複数倒せばいいだろう。
「よし、じゃあ……クラリス、カナン、ついて来てくれるか?」
「うん!」「もちろん……!」
ドロシーは民衆をまとめたり、行政のことをやってもらったりと、いそがしくしているのでお留守番だ。
サリナさんも、もちろん戦ったりしないし、受付嬢の仕事もあるから、お留守番。
俺とクラリス、カナンの、いつものパーティーで、奈落へと転移することにする。
あ、でも……その前に。
「久しぶりに、ギルドラモンの街に寄るか。あれから、復興がどうなったかも知りたいしな」
「そうね……かなり、街が壊れちゃってたからね」
ということで、俺たちはギルドラモンへと転移した。
まさか、あんなことになっているなんて知らずに――。
――――――――――――――――――
【★あとがき★】
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