第77話 スカウト2


 次に俺は、武器屋へやって来た。

 武器屋の親父も、当然スカウトする。


「久しぶりだな」

「おう、アンタか」


 防具屋のときと同じような会話を交わす。


「それで、引き受けてくれるか?」

「おう! ロイン、アンタの頼みなら引き受けるぜ」


 よかった、武器屋も協力してくれるみたいだ。

 そういえば、武器屋の名前も訊いておかないとな。


「そうだ、アンタの名前を教えてくれ」

「ああ、そう言えばまだだったな。俺はドレッド・ガントレットだ」


「ドレッド……ガントレット……!?」


 俺はその名前を聞いて、言葉を失った。

 ガントレットといえば、伝説の職人の名前であり……。

 そして、あの防具屋の親父とも同じ名前になる。


「アンタ、防具屋と兄弟だったのか……!?」


 そういえば、顔の形は似ているかもしれない。

 普段は鍛冶用のヘルメットなんかをしているから、わからなかった。


「ああ? 防具屋って……レドットのところにも行ったのか?」

「ああ、そうだが……」


 防具屋の名を出したとたん、武器屋のドレッドは急に態度を変えた。

 まるで何かに怒っているようだ。


「なにか、訳ありのようだな?」

「まあな、アイツとは折り合いが悪いんだ。だからこうしてわざわざ、同じ街にいながら別々に店をやってんだ」


 なるほど、そういうことか。

 二人ともやけに能力の高い職人だとは思っていたが……。

 でも、中が悪いのは困ったな。

 こんな優れた能力を持つ兄弟が、力を合わせればきっともっとすごいものができるだろうに、もったいない。


「なあ、そこをなんとか頼むよ」

「だめだ。俺はアイツがいるんなら、手は貸せねえ」

「そんな……」


 なにか、いい手はないだろうか……。


「とりあえず、素材だけでも見に来てくれないか? レドットとは顔を合わせなくていい。俺の領地は広いから、城の反対側に工房を作らせよう」

「…………そうか、それなら、まぁ……」


 まあ、同じ街に店を構えていても平気なくらいなんだし、今とさほどかわらないだろう。

 ということで、ドレッドも同行を了承してくれた。





「おお……!? これはすごい素材じゃないか!」


 ドレッドもレドットと同じように、ギルドラモンから持ち帰った素材に驚いた。

 まあ、こうしてみると、兄弟なのだなあと思う。

 しかしなぜ、彼らはそんなにも仲が悪いのだろうか。

 せっかくの才能のある兄弟なのだし、いつまでも仲たがいしているのはもったいない。

 俺にはそういったことはわからないけど……。

 できることなら、力になってやりたい。

 この兄弟には、俺もさんざん世話になってきているからな。


「なあ、ドレッド……聞かせてくれないか? アンタたちがそうなってしまった理由を」

「…………ああ、そうだな。あんたになら、話してもいいかもしれない」


 ドレッドは、幼いころの話にまでさかのぼって、聞かせてくれた。


「…………って、そんな理由かよ!!!!」


 だが、そのわけを聞いた俺は、そう叫んでしまっていた。

 もっと複雑な、重い事情があるのかと思いきや……まったくそうではなかったからだ。


「そんな理由ってなんだよ! 俺たちには大事なことだったんだ!!!!」

「はぁ……そうかよ……」


 呆れた……。

 レドットとドレッドの喧嘩の理由は、なんと女だった。


 ミレージュの酒場にいる、ベラドンナという女性。

 彼女は二人の幼馴染で、今でもしょっちゅう店に通っているそうだ。

 しかし、酒場に同じ時間に兄弟が訪れることはない。

 それぞれがベラドンナをめぐって、アプローチをしているのだそう。

 お互いに手を引くように言ったが、どちらも譲らず、喧嘩になったそうだ。

 それから、もう5年も口をきいていないのだそう。


「おいおい……子供かよ……」

「うるせえ! 俺たちはこう見えて、奥手なんだよ……!」


 たしかに、兄弟は筋骨隆々の、いかにもなイケイケタイプの見た目をしている。

 だが、奥手にもほどがあるだろ……。

 話を聞く限り、ベラドンナへのアプローチも、とてもアプローチと言えないようなものだった。

 単に酒場に通い詰めて、ベラドンナに酒をおごるとか、いっしょに飲むくらいのものだった。

 もっと進展があってもいいだろうに……このおっさんたちはいい歳こいてなにをそんな甘酸っぱいことをしているのやら……。


「なあ、なんでもっと積極的にいかないんだ……? 幼馴染なんだろ……?」


 俺なら、その日のうちに誘っているんだけどな……。

 まあ、俺も昔は奥手だったから、人のことをいえるほどではないんだけど……。

 俺も村に幼馴染がいたが、なにもなかったわけだし、サリナさんと出会うまでは……その、そういったことには縁がなかった。

 だから、気持ちがわからないわけではない。


「幼馴染だからだよ……。俺たちは、微妙な関係なんだ……。だから、それを壊したくない……」

「そうか、まあ……つらいよな。白黒つけるのは」


「ああ、そうなんだよ。ベラドンナに思いを伝えたら、この関係が壊れてしまう気がするんだ……」

「ああ、気持ちはわかる。だがな……もうそれも終わりだ」


「え……?」

「ほら、行くぞ……」


「ちょっと……ロイン、どこに……!?」

「ベラドンナのところに決まっているだろ。それに、レドットも連れていく」


「おい、ふざけるな! 俺はそんなこと……!」

「いいか! これは魔王軍との戦いのためでもあるんだ! 黙ってついてこい!」


 俺はドレッドとレドットの手を引っ張って、転移した。

 いつまでもこうしているわけにもいかないだろう……。

 それに、兄弟も本当は、白黒つけたがってるんじゃないか?

 どっちかが抜け駆けしてもよさそうなものを、こいつらは5年も、もう煮え切らない駆け引きを続けているわけだ。

 なんだ、仲良し兄弟じゃないか、似た者同士だ。


「おいロイン! 俺は絶対にイヤだからな!」

「まあなんでもいいが……とにかくベラドンナに気持ちを確かめる。そうすればすぐに済む話だろう? 大丈夫だ、俺が背中をおしてやる」


「うう……まあ、アンタがいてくれるなら頼もしいが……」


 とレドット。


「でも、ロイン……あんたやけに慣れているみたいだが? もしかして、女の扱いは得意なのか……?」


 と、ドレッド。


「さあな……まあ、4人ほど、妻がいる」


「「四人……!?」」


 兄弟はそれで、黙って俺に付いてくる気になったようだ。

 俺たちは、ミレージュの酒場まで向かった。


「まあ、俺に任せれば悪いようにはしないさ。あんたらには、恩がある」

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