第76話 スカウト


 俺は人材を確保するために、ミレージュの街までやって来た。

 まずは、いつも使っている防具屋に入る。


「よう……」

「おお! これはロインさんじゃないか! またレアドロップかい?」


 と、親父がいつものように出迎えてくれる。


「いや、今日はちょっと……話があって来たんだ」

「話か……あんたの話なら、なんでも聞くぜ?」


 俺は、今自分がやっている事業について話した。

 俺の思想についても。

 誰もが平等に活躍できるギルドを作ろうとしていること。

 それから、魔王軍に対抗できる戦力を作ろうとしていること。


「なるほど……そういうことか、あんたの考えはわかった。それで、俺に専属の防具職人になってほしいってことだな?」

「そういうことだ。頼めるか……?」


「そうだなぁ……聞いてやりたいのはやまやまなんだが、俺も一人しかいないからなぁ。そんな大人数の防具を作れるかどうか……。それなら、もっと大所帯のところに頼んだ方がいいんじゃないか?」

「いや、アンタじゃないとダメなんだ。俺の防具を作って来たアンタに頼みたい。それに、金はあるから、助手はいくらでも用意する」


「なるほど、そういうことだったら、引き受けよう」

「本当か! 助かる!」


 そういえば、俺はこの親父の名前もまだ、知らないままだったな。


「アンタ、名まえは……?」

「俺か……? 俺は、レドット・ガントレットだ」

「ガントレット……!?」


 そういえば、聞いたことがある。

 田舎者の俺でも、聞いたことがあるくらいの名だ。


 伝説の職人、アレクサンド・ガントレット。

 数百年前に、勇者の装備を作り、その後突如として引退した伝説。


「あんた、あのガントレットの子孫なのか……!?」

「まあ、そういうことだな。内緒にしておいてくれよ? 注文が殺到したら困る」


 どうりで腕がいいわけだ……。

 しかし、そんな人物が、どうしてこんな場所で……。

 まあ、それはなにか訳ありなのだろうが。


「とにかく、助かるよ。これからもよろしく頼む」

「おう、任せておけ!」


 俺はとりあえず、レドットをアルトヴェール領まで転移で連れて帰った。

 必要な荷物も、アイテムボックスに収納して、持っていく。

 それから、彼の店は、信頼のできる従業員に任せてあるから大丈夫だそうだ。


「おお! これはすごい城だなぁ……出世したもんだなぁ、最初にうちの店にきたときに比べたら」

「まあな。あんたのおかげだ」


「それじゃあ、まずは素材を見せてもらえるか? それによって、こっちも作るものが変わってくる」

「ああ、もちろんだ。こっちだ」


 俺はレドットを、倉庫に案内した。

 倉庫には、無数の素材が、一種類の素材が一個ずつ並べて置いてある。

 その素材の横に、アイテムボックスもそれぞれ置かれている。

 ようは、一個だけ外に出して、なにが入ってるのかわかるようにしてあるのだ。

 アイテムボックスには、その対応する素材が、無数に入っている。

 この仕分け作業は、主にドロシーがやってくれたみたいだ。

 念力を使えば、並行して作業が可能らしい。


「おいロイン、この素材はなんだ……?」


 レドットは、ひとつの素材に目を止めた。

 この辺、ミレージュ周辺では、手に入らないアイテム。

 俺が、ギルドラモンから持ち帰ったしなだ。


「それか、それはルナティッククリスタルだ。クジラを倒したときに手に入ったものだな……。それだったら、かなりの個数あるぞ」


 なんといったって、降り注ぐくらいにドロップしたからな。

 俺の大量確定レアドロップのおかげだ。


「こんな素材、みたことねぇな……ちょっとこれ、借りていいか?」

「ああ、好きなだけ」


 どうやらレドットでも知らない素材のようだ。

 まあ、あんな奈落まで行く冒険者、なかなかいないからな……。

 これはいろいろ期待できそうだ。

 いったいどんな性質の素材なのだろうか……。

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