第64話 進化の種


 翌朝、俺たちは同じベッドの上で目覚めた。

 俺を中心にして、右にカナン。

 左にクラリスだ。

 まさに、両手に花というやつだな……。

 それにしても、昨日は俺もかなり酔っていた……頭が痛い。


「おい。2人とも、起きるんだ……!」

「ううん…………」


 クラリスはまだ寝ぼけている。

 しかし、カナンはとんとんと叩くと、すぐに目覚めた。

 だが、カナンは俺の顔を見るやいなや……シーツをくるんと丸めて、それにうずくまってしまった。


「おーい……どうしたんだ……?」

「う、うるしゃい!」


 あ、噛んだ……。

 カナンって意外と、こういう可愛いところがあるよなあ。

 普段は気が強くて荒っぽいくせに……。


「なにをそんなに照れているんだ……?」

「あ、あたりまえだろ……! 昨日はその……あ、あんなことがあったから……」

「ああ……まあ、気にするなよ。なにも変なことはなかったぜ……?」

「そ、そうか……? 私、大丈夫だったかにゃ……?」

「うん。カナンのことをもっとよく知れて、嬉しかった。カナンがこんなに可愛いってことを……って、うわぁ……!」

「ロイン♪ ロイン♪ にゃあ」


 カナンは俺に飛びついてきた……。

 酔うと猫っぽくなる奴だけど……普段も甘えるとこんなに猫っぽいのか……。

 まったく、ギャップのすごいヤツだ……。

 でも、俺の前でそれだけ素の姿をさらしてくれるようになったのは、うれしい。


「さあ、じゃあ昨日のステータスの種を分配するか」


 俺は、クラリスを叩き起こした。





【アイテムボックス】


攻撃の種×45

防御の種×37

魔力の種×48

知能の種×27

敏捷の種×36

魅力の種×48

運の種×73



 さて、俺たちはこのステータスの種を、効率的に分ける必要がある。

 もっと人食い植物デスフラワーを乱獲してもいいが、それはいろいろとバランスの崩壊が不安だ……。

 また魔王軍との戦いで必要になったら、そのときに集めにこよう。


「じゃあとりあえず、攻撃の種はぜんぶロインだね」

「え……? 俺でいいのか……?」


 俺以外にも、カナンだって、クラリスだって、攻撃力は必要なはずだ。


「私は、盾だからいらないかな……。シールドバッシュとか、盾を使った攻撃は、防御力のほうがダメージに加算される仕組みだから……」

「そうなのか……」


 とクラリスは遠慮した。

 カナンのほうも、


「私は、敏捷の種をもらえればそれでいいかな。素の攻撃力には自信がある。それに、これは全部ロインが集めたものだしな……。これからもレアドロップアイテムを集めるなら、結局はロインがとどめを刺す必要がある。だから、これはロインに。私は、素早さで相手をかく乱したりすることに専念するよ……」

「そ、そうか……悪いな」


 とのことで、攻撃の種は全部俺がいただくことになった。

 といっても、これ全部食べられるかなぁ……?


「じゃあ、防御力の種はクラリスだな。敵の攻撃は、全部クラリスが受けてくれるんだろう?」

「うん、任せて! あ、でも……念のため、カナンとロインも食べてね……? その、もし敵の攻撃を受けたときが、心配だから……」

「お、そうだな。わかったよ」


 まあ、俺はそうそう死なないけどな……。

 勇者の加護もあるし、防具も一級品だ。


「じゃあ、敏捷の種はカナンに多めに分けて……っと」

「そうしてくれると、助かる」


 俺とクラリスは、既に高速移動スピードアップのスキルを使いこなしている。

 だからまあ、素早さは低くても問題ない。


「魅力の種はどうしようか……?」

「そうだなぁ……それは均等でいいんじゃないか……?」


「ロイン、私たちがさらに魅力的になっても耐えられるのかな……?」

「はっ! お前たちは既にカンスト級に魅力的だから、大丈夫だ!」


「「………………」」


 俺がそう言うと、クラリスもカナンも顔を赤らめて、顔を見合わせた。

 アレ……?

 俺、そんなに変なことを言ったか……?

 さっきまでベッドの上でいっしょだったんだから、このくらい普通だろう?


「も、もう……ロインったら……。急にそういうこというんだから……ずるい……!」

「へ……?」


「そ、そうだぞ! ロイン、私を褒めたって、なにもないんだからな……!」

「そ、そうか……」


 なんだか、無駄に二人を照れさせてしまったようだ。

 だが、俺は本心を言ったまでのこと。

 それに、照れている二人も可愛い。

 これからは隙を見て褒めていこうかな。


「じゃあ、運の種はどうする……?」

「それは、私たち二人で食べるわよ」


「え……?」

「だって、ロインに運っていらなくない……? どのみちいいものしか出ないんだし……」

「ああ、まあ……そうだな」


 たしかに、クラリスの言うことは一理あるな。

 俺が倒せば、俺の運にかかわらず……敵はレアドロップアイテムを落とす……そのはずだ。

 だが、本当にそうなのか……?

 俺は、自分の運がどのように働いているのか、いまいち検証しきれていない。

 そう考えていると……。


「ちょっと待ってくれ。もしかしたら、そうとは言い切れないかもしれないぞ……?」

「カナン、どういうことだ……?」


「もしかしたら、ロインの運がさらにあがれば……さらに奇跡的な確率を引き当てることができるかもしれない……! そうじゃなくても、【確定レアドロ体質】になにか変化があるかもしれないだろう……?」

「まあ、たしかに……」


 そう、カナンの言うこともあり得ない話ではない。

 だって、まだ試したことないもんな……。

 俺の運がさらに上がったとき、いったいどうなってしまうんだ……!?


「じゃあ、運もロインに全振り決定ね!」

「お、おう……すまんな。俺ばっかり」


「なに言ってんの! 全部ロインの手柄なんだから! それに、私たちのリーダーはロインでしょ?」

「そうか。ありがとう」


 あらためて、リーダーと言われるとなんか照れるな……。

 まあ、それはつまり、俺がもっとしっかりしなきゃいけないってことなんだろうが。

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